業界独り言 VOL277 夢か誤解か

先日、山登りクラブの先輩と大阪地区で食事をしたのだが、初めての単身赴任生活に面食らっている様子でもあった。今では、立場は違うものの無線仲間であったり山歩きの仲間であった当時の話でひと時を過ごすことが出来た。米国製のキット作りの話なども持ち出してみたところ驚嘆もされた。確かにHFのフルセット機能搭載のトランシーバーをキットとして提供するメーカーのベンチャースピリットと共に設計完成度や製作の容易さなどは、かつて彼が自らの手で作った製作記事などを雑誌「ラジオの製作」に投稿していたころを思い出させたのかも知れない。かつてのキングオブホビーと称せられていたアマチュア無線が単なるQSLカードなどのメンコ交換やラグチューに興じさせて買えば済むといった状況にしたのにはメーカーにも責任があるのかも知れない。また、携帯電話やPHSを開発投入していくなかで不安定さの通信を楽しむといった気風は消し飛んでしまったらしい。

そんな先輩も端末機器メーカーの技術トップとしての一面もあり、いまでは端末開発でのソフトウェア開発の苦労とがっぷり四つに組んできたということもある。このメーカーが要求することは、少しいつも時代の先端の先を行き過ぎてしまう嫌いがあるのだが、一年ほど前に言われてきたのは「すべて一式ソフトウェアを納めて欲しい」というものだった。要素技術を提供していくのがQuad社のビジネスモデルではあるものの商用端末のソフトウェア一式を開発提供して欲しいというメッセージは異質なものであった。当時の回答は、そうしたビジネスモデルは無いのですが・・・というものであった。それから一年余りが経ち、同様な要求が他のメーカーからも出るようになってきた。これは夢か誤解か・・・。背景には、乗り遅れてはいけないという緊迫した事情が3G携帯開発業界に走っているようだ。トップランナーの通信キャリアが繰り出した先行商品の後続端末を適正なカテゴリーに納めた形でものづくりをする必要に駆られているからだ。

2006年問題の提起などや、最近の定額通信事情などが通信キャリアの再編劇などへのストーリー展開などがあるようだ。確かにメモリーが潤沢にあることを要求されるような、UNIXベースいやLinuxベースの端末が全てのプラットホームに共通するわけでもないらしい。要求されるカテゴリーに対応する技術や商品の売り込みがチップセットベンダーから一斉に行われているのもそうした背景に呼応するものなのだろう。既定路線としてのモデムチップとアプリケーションチップではカバーできない内容なのかも含めて開発費用がBOMに占める割合なども含めての精査が日々行われているのだろう。海外のチップベンダーがセットメーカー参りを続けているのが最近の特徴であり、以前であれば逆にセットメーカーが海外まで詣でていたのとは何か事情が異なるようである。どうも要因にあるのは、Quad社の活動でもあるようだ。Quad社の中のソフトウェア事業部門の最近の動きが理由らしい。

Quad社が提唱するバイナリー実行環境が、正面斬って表舞台に活動を現してきた。ソフトウェア事業部門とチップ事業部門とのコラボレーションが一つの特色ともいえ2Gから3Gへのスムーズな移行を目的として儲けなしで他社にも塩を送るようなスタイルに面食らっているのも事実だろう。取り巻く他の国内の通信キャリア達も当惑気味でありながらも、開発環境あるいはプラットホームとしての可能性に着目しているようだ。移植キットを提供しているスタイルの上で自由に移植してよい開発環境というものは、稀代の施策であると思うのだが、これを応用してビジネス向け無線端末機器の開発に適用したらなどと夢見てしまうのは門外漢ゆえだろうか。携帯電話のような専用チップの支配がないからなのか、なかなか腕まくりをしてみても始まらないということなのだろう。数が出ない製品にこそ標準プラットホームの利用が求められている事実と、そうした手当てもままならずに採算割れとして撤退していくような状況もあるようだ。

適当なARMコア内蔵の集積度のマイコンが利用可能であれば良いのだが、業務用などの無線機器のデジタル化の流れの中でせめてマイコンコアだけでもARMを載せたチップ開発などをしてもらえればと思うのだがいかがなものであろうか。ダウンロードモデルでの課金システムでなくとも最近ではこうした実行環境をプロトコルを越えて利用しようという気運がお客様からも出てきているようである。自社マイコン搭載のチップセットを利用してきた過去の流れからの決別などを考えているのは、ソフトウェア開発費用の最適化共有化といった目的に照らして共通アプリケーションが流通可能になりはじめたからてもあるようだ。無論、携帯電話開発の事業としてみれば、開発環境としてWindowsベースでの開発キットの上で複数のアプリケーションのインタラクションなどの検証が可能になる状況は、出荷母数の少ない無線システムにおいても携帯電話などに向けて開発整備されたミドルウェアを共有したりするといったことを支える大きな力になる。

開発効率の改善という目的であれば、毎回スクラッチ&ビルドを行うような仕事の仕方がもとより問題なのだが、プラットホームに振り回されていて効率が低下しているというケースもあるのかもしれない。とはいえ色々な背景のなかで仕事をしているビジネスの世界では傍から見るほど話は単純ではないのも事実なのだろう。落ち着いて端末開発の地力を蓄積しつつの仕事をしている会社もあれば、件名消化にのみ終われていて放出消耗しているという感じに映る会社もあるようだ。同じように技術パッケージを示してみても関心を示さないか、反応が全くことなるのもそうした状況の裏返しということでもあるだろう。モデム屋として通信プロトコルの試験をいくら重ねてみても、そうしたことへの関心は薄れるばかりである。第三世代バブルが弾けた理由には、いつまでも火付きの悪い、頑固な欧州などに見るような明確な第三世代への移行理由が見当たらないケースが支配的だという説もある。余りにも期待しすぎで投資しすぎた移行を急ぎすぎた日本などが自家中毒を起こしているのではと私は思っている。

いまの仕事に照らしてみると期待するビジネスを進めていく上で最も好ましい人材とは、端末開発メーカーの中で開発プラットホームの検討に傾注しつつ、実際の開発部隊から浮いてしまったような人たちなのかも知れない。本来、端末開発メーカーの中での重要な仕事として位置づけられているべき仕事が、スケジュール優先のままにリーダーシップを発揮できずにいるのだとすれば、逆にそうしたワークを評価される立場に回ったほうが互いの利害一致も図れてよいはずなのだが。クラブの先輩から頂いた期待値から言えば、来年には、そうした端末ソフトウェアの一式提供が図られるような時代に突入しそうだというのだ。そうしたソリューションを出せるチップベンダーが伸びていくのかどうかはまだ不明だが、開発ビジネスが変わりつつあるように見えるのは昔の電訳機開発を受諾するデザインハウスのようなビジネスに近づいているのかも知れない。

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