携帯電話業界では、最近、端末におけるプラットホームの開発が流行している。いままで通信キャリアが提示してきた端末動作仕様なるものを実現するために必要な機能を網羅設計することの難しさを共通化して肩代わりしたいということが底流にはあるようだ。とはいえ、今まで端末メーカーが自社のノウハウとして蓄積してきた部分も含めて未経験の通信キャリアが仕様を書き起こしてきた側から、実装を検討する側に回って開発するということには大きなギャップがある。昨年から起こってきた流れには端末開発のベースとなるOSプラットホームの選定といった段階では解決できない部分にミドルウェアとして通信キャリアの仕様を網羅する部分を作りこむというのが業界全体としての動きであった。プラットホームの部分をOEMメーカー自身が開発していくという昔ながらのスタイルもあれば、通信キャリアが開発費用負担をして自ら取り組もうという大英断をしたスタイルもあるし、通信キャリアが基本設計のガイドライン提示を行い各OEMが実際の実装を行い結果としての成果物を流用展開できるようなインフラまでも用意するといったスタイルまでもある。
OEMの実装状況や開発のボトルネックを考慮しないままで通信キャリアが、他の通信キャリアとの競争からスペック競争のみに走っていくことでは追従できずに疲弊して破綻してしまうのも実情である。通信メーカーが新たなプラットホームを選択して実際に通信キャリア向けのプラットホームとして仕上るまでには一年以上を要するということなのだろうか。無論、そうした難しい端末仕様となっているのは国内通信キャリアに多く見られるようでAsIsで使えるようにしてくれればという欧州のキャリアも多いようだ。まあUI仕様程度の話から、プロトコルやUIMサービスといった部分で選択する多くのオプションなどの差異吸収といったことまでも様々ある。標準といわれるブラウザ技術などをバイナリー提供しているベンダーなどではさまざまなOEMやキャリアの要望に応えるべくソースがFEATURE定義だらけになってしまったという話もある。一つのソースであるかも知れないのだがカスタマイズするための技術として適切なものといえるのかどうかは不明である。通信キャリアのスペックとOEMメーカーの独自性の狭間に晒されるベンダーとしては苦渋の選択といえるのだろう。
そんな端末開発に100億円以上が必要となるといわれる所以は、のりしろを繋ぎこむインテグレーション技術に投下するために必要な費用を各OEMメーカー自身が負担しているからに他ならないからだろう。とうぜんそうした費用を負担しきれないメーカーは、開発レースから落ちこぼれていくしそれにより、今まで開発に投下されてきた外部リソースという意味でのソフトハウスが仕事を切られてしまうという事態は想定の範囲でもある。アプリケーションエンジンを開発しているメーカーも端末が出来ないのであれば、売上が成立しないので困ってしまう事態となってしまうのである。自らの手で端末開発を手がけているわけではないので、こうした転機にあってはビジネスモデルの改革を考えていかざるを得ないのだろう。積極的に自らの製品範囲を広げて通信キャリアサービスに対してコンプライアンスな環境を提供できますというコンサルティング的なビジネスも視野に入れ始めているようだ。多くのチップベンダーが提供するプラットホームにあわせた形での提案が広告やイベントを通じて発表されているのが最近の事例でもある。
Quad社で始めてきたバイナリー環境も、ある意味でそうしたOEMメーカーとしての取り組みを昇華させてプラットホーム技術として展開してきた技術を、端末事業撤退後ソリューションビジネスの一環として展開拡張しているのだ。国内の元気ある通信キャリアが、CDMA2000で展開している流れにおいて、この技術をJava対抗といった切り口で利用してきたのは一概に誤りとはいえないまでも本来の意味においてJavaとは異なる意味でのプラットホーム技術の一つであることに違いない。各OEMメーカーがRTOSの上に工夫を凝らされてアプリケーション環境を構築してきた流れを統合されて通信キャリア指導でプラットホーム一本化という動きの中で最近発売開始されたモデルが注目もされている。とはいえ今までの各OEMが蓄積してきたノウハウと核となるアプリケーションを通信キャリアがどこまで取りまとめられるかという事は一つの挑戦だったといえるのだろう。
どの通信キャリアも悩みながらプラットホーム整備を行っているので、互いにやっていることについての興味と自社で進めている現場チームへの猜疑心などがあいまって時折トップからのお達しからおかしなシチュエーションを想定してしまうことがないともいえない。プラットホームの整備は互いに利用してもいない環境の中で、人伝に聞く内容に右往左往されたりしているのは仕方が無いだろう。プラットホーム整備の最大の目的は端末開発コストの削減に他ならない。端末開発にあたり通信キャリアの仕様を満たすための工夫が、ミドルウェアとして達成できるのであればアプリケーションの流通が可能となるというのが狙いであり、期待されるのは試験コストの削減などとなる。無論、ベンダーとしては各OEMにカスタマイズ対応する図式からの開放が期待できることから賛同が得やすいとも思われる。
しかし、プラットホーム構築において通信キャリア指導で進めていくには、各OEMのノウハウが必須でありIPRとして通信キャリアが提示してしまう中には、その費用分担についての調整が想定されもする。仕様自身がIPRであると言われないのであれば、自力で構築する芽もあるのだろうが、誰かが資本投下してくれるのであればプロジェクトとして推進したいというスタンスが見え隠れするソフトハウスでは、なかなか踏ん切りがつかないのも事実である。鶏と卵の議論になってしまい、プラットホーム構築が出来ればコストダウンとなり、そのプラットホームを前提としたビジネスで自立も可能になるというすごろくのストーリーは中々スタートしない。競争を最大に感じている、通信キャリア自身が資本投下して行った事例が続く中で、想定の範囲を越えるリアクションも出てきたようで興味深い。
端末が売れれば桶屋が儲かるといった図式の仕組みが携帯電話端末には、いくつかのIPRがある。そうしたIPRを握っているベンダーがサイクルを回すことに注力するというのは考えるべきストーリーの一つだったのだろう。実際問題、Quad社自身も自社が保有しているIPRにより端末が展開されることによる見返りを十二分に考えるケースでもある。スムーズに端末を生み出していくということをビジネスに積極的に捉えようという動きは、そうしたIPRを保有するアプリベンダーが主導して発動されている。しかし、不思議に思えるのは本来OEMが蓄積してきたプラットホーム化に向けた端末構成技術のノウハウを利用するには、従来のような下請けとしてではなく自社ビジネスとしてアプリベンダーが発案行動していく流れには、何か大きな先行投資としての動きが感じられる。PDCで構築してきたサイクルからの大きな転進に向けて色々な形で動きが発生しているのは戦国時代の様相がますます深まった最近の状況でもある。
プラットホームが整備されることにより、次に起こるのはPC化の流れであり、果たして国内メーカーが最先端技術を積み上げてきたビジネスモデルの大転換期が近づいていることは皆認識しているはずである。開発コスト削減が果たされる中で次に各メーカーが考えるのは自社が保有しているIPRによる端末コストのBOM算定における相殺優位性となる。GSMのライセンス費用やマルチメディアのライセンス費用など自社が保有する強い技術が無ければそうした部分についてのコスト差は厳然としてメーカー毎に存在する。無論機敏な経営手法などを旗頭として取り組むというオプションもあり、新たな技術に積極果敢に取り組んでいくというメーカーなどは早くに消化することでビジネス商機を広げようということでもあるらしい。商才に長けた東アジアの仲間達も利用可能なプラットホーム戦略の中で、結局国内OEMが保有する何らかのアドバンテージが必要なのだが、それはブランドイメージなのだろうか。
XML化技術が世界を救うとは言わないまでも最近の日経エレクトロニクスでも注目しているのはXML技術の組込み世界への応用であるらしい。Quad社が最近手がけているのも、XML化技術の応用としてUI表記言語としてのXMLでありこれに基づく物づくりの方法論を一つのパッケージとして開発プラットホームの味付けに一役買わせようという魂胆でもある。携帯電話の物づくりの難しさが、開発プラットホームの整備で解決されてタイムリーに端末を供給していく中で、端末をキャンバスと見立ててXMLでアプリケーションとしてのuiを書き起こせるというストーリーを提案している。これは端末をメディアとして提供するといった時代の到来といえるのかも知れない。端末技術の進展の中で良い時代になろうとしているともいえる。端末開発現場の方々の理解が追いついているのがどうかは別問題かも知れない。気がつけば自分達の仕事の価値が薄まったり存在理由について問われたりする時代になるのかも知れない。