VOL27 仕事とはなにか 発行2000/07/09

サンディエゴに来て最初の一週間が終わった。独立記念日の休みも合ったので実質3日の週であった。木曜日の全員ミーティングにも久しぶりに出席して顔なじみを思い出していた。環境は昨年のそれとは少し変わっていた。端末製造部門の売却によりこの事業部の技術者と建物をシェアする形になったからである。狭くなったわけではないが、伸び伸びとしていた建物が他の会社と同居するために電子鍵が必要になったのである。共通のものも多分あるのだと思うし、中が悪いわけではない。見知った仲間の間にもセキュリティで壁が一つ増えたのが異質な感じがするのである。私の強力な仲間に中国系アメリカンの石君がいる。リビングストンというのだが自分ではstoneと略することからここでは石君とかこう。彼は、既にQuadに5年いるのだが5年経つと4週間の休暇が取れるようになる。これはQuadとしての標準らしくそれまでは3週間の休暇なのである。米国人の場合には休むために仕事をしていると思われるかもしれないし、そういった一面は良く見かける。休むために懸命に引継ぎしまくって山ほどリリースをして休みに入る。そういう風景だ。Quad社の環境は決して悪くないと思うし、確かに機会や費用などに困ることはない。優秀な技術者を世界中から募るというスタンスは確かにある。しかし、Quad社を去る人もいるのだ。事業部長という職責のSrVPは、法律家の教鞭をとりに大学へいき、今でもQuad社に対してコンサルはしているようだ。
 
チップ部門のハードウェア支援取りまとめ役の方は、教会に仕事に入った。すでに十分な株価の対価が入り早期からいる方達にとってはストックオプションで十分な老後が見込めるということもあって自分の求める求道の世界にはいったらしい。お金で仕事をしている人だけかと思うと先の石君と同期に入った技術者が今週で最後だとというメールを皆に出していた。辞めたいのではなくて、Quad社にジョイントした段階で自分の目標を5年間と定めて仕事をしてきたようだった。5年経ってみて色々な仕事の達成感をもちつつ実現してきたが自分のやろうとしている次の目標が見出せなかったとしている。同期に入った石君は神妙に受け止めていた。大学を出てQuad社で思いっきり仕事を昇華してきた技術者にとっての5年間はきっと充実したものに違いない。自分の納得する5年間を仕事として実現し、次の自分というものを考えて去っていくというスタイルもあるのだと思い初芝時代に同様な状況に至った後輩を思い出していた。
 
Quad社の状況で言えば、理想を追求する姿とチップ商売という仕事を推進する面とで互いに反目する点も出ているような気がしている。しかし、理想を追求するというスタンスを明確にしている点は私が選択した理由に他ならない。こうした風土が失われるのであれば私もQuadをさるだろう。四半世紀あまり技術者をしてきて、やはり自分の仕事で世の中に貢献したいというのが正直な私の気持ちだ。色々なことに取り組んできたことでアプリケーション支援という仕事には経験は活かせていると思うし、技術者のための技術者という仕事は、従来要素技術として追求していた姿とマッチするのだった。要素技術に対価を支払う仕組みがなければ、出来ないというのはつねづねいい続けてきた事だがライセンスという対価がそうなるのだと改めて納得している。圧倒的なライセンスという背景に支えられるのではなく、ソフトウェアとしての精度・機能も同様に高めて世界一のレベルを追求していくというのが目指している姿である。ローカライズという面を取るとまだまだ十分でないのが現実だが、理想とする形を掲げて、予算も方針も権限もつけて進めさせて貰えるこの会社の風土はベンチャーの気質をまだまだ十分にもった魅力的な会社だと考えている。
 
給与で仕事をする人もいるだろうし、内容で仕事をする人もいるだろう。忙しいのが好きだという人はいないと思う。そうした目で自分のしている仕事と、そこに見出す価値観を今一度考えてみるとこれからの技術者の人生にとって重要な転機があるような気がしてならない。会社という家族制度が、若干の破綻を来たしているのが日本社会の現状であることは、今更ながらによく感じている。家族に頼っている気持ちがある限り自立した、技術者にはなれないと思う。安定な家族という姿は、いま何処にもないと思うし自分で支えてやろうという気概なしにそれは達成しえないと思う。

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