国内のキャリア向けの支援をすることは、そのままキャリアへの納入カスタマーの課題を書き換えてしまうことにも繋がっている。我々ががんばるとカスタマーの方にとってはある意味で重荷になってしまうという面もあるかも知れない。しかし、重荷にならない範囲で仕様を決定している限りにおいては溜池の会社のそれを抜き去ることが難しいのも事実である。キャリアのスキルアップにはどうすれば良いのだろうか。自分たちの組織強化には人材拡充が求められているのは事実だった。採用と教育の二つが柱になる。
H君からの手紙にあった欧州の会社からの転職候補者面接を行うことになった。この人のレジメは中々魅力的だった。北欧のその会社に入るまではPDCのベースバンド系のDSP開発をしていて川崎郊外にある会社系列に在籍していた。MOVAテスタのスクリプトを書いたりしつつスキルアップを図り北欧の会社に転身したようだった。
北欧の会社では、WIDEなんとやらを開発しているという触れ込みでもあったので、即戦力の期待に基づいて面接に臨んだのである。人物が訪れたのは、会議室のひとつで人事担当の面談の後に私たちが面接対応した。QUAD社で求める人材像についてはヘッドハンター会社に通知してあったのだが、このハンターとの面接が少しいびつだったようだ。
我々が提示している職種は次世代CDMAの開始に先立ち端末試験ビジネスを企画していることから試験担当の技術者と今話題の携帯プラットホームの支援技術者と、チップ支援のソフトウェア技術者・ハードウェア技術者の募集のそれだった。対象者は、アプリケーションのグローバル化担当をしているらしく端末の表層を撫でているような仕事に飽きてしまったらしく、プロトコルや下位レイヤーの技術などを学びキャリアアップを図っていきたいという希望があった。そして対象者は試験技術者とプラットホーム支援技術者を志望して我々のチップ支援技術者ということには興味がなかった。
残念ながら、即戦力でのRF経験などをもつことが試験担当には求められることなどから、対象者の勉強していきたいというスタンスとは相容れなかった。半年以上は北欧で開発に従事してきたという対象者のコミュニケーションスキルには問題は無いようだった。現状に近い、プラットホーム支援技術者の仕事について説明をしたところやはり、これも対象者のしたい仕事ではなかったようだ。結局チップ支援技術者が一番していきたい仕事に適合するようで、対象者も俄かに興味を示し始めた。QUAD社のソースを読み解ければ、プロトコル全般からほぼ携帯電話の技術を手中に収めることができるのは事実である。
ようやく双方の興味と私たちの利害が一致することになり対象者に技術質問を投げたのだが・・・。川崎のMOVAメーカー、北欧の携帯メーカーを歴任している大卒8年目というレジメから見られたものとは裏腹に、ソフトウェア技術の希薄なことだった。本当にアプリケーションをC言語で開発しているのだろうか。我々が与えた組み込み技術者の尺度を計る、良く書かれた実際には誤った文字列複写関数の問題点を示すことは出来なかった。続いて少し問題を簡単にしてビットセットの関数を作成するという課題には、「カーニハンリッチーのCを貸してください」という要求を私たちに突きつけた。そしてどうも対象者は定常的に辞典のようにこの本を利用しているらしく指が必要なページを覚えているようだった。しかし、正解にはたどり着かず誤った例を示した。我々の疑問を確認する意味でビットクリアの関数を作ってくれということで再トライをお願いした。しかし、同様な形で誤った答えを示してくれた。
対象者は素直にC言語は最近の二年間での経験しかないのですと正直に語ってくれたがアセンブラーでMCUの組み上げ等をしてきたという経験とはギャップを感じた。また二年間の間に文法を覚えずに仕事が出来るのだろうか。このメーカーの端末の完成度については疑問を持たざるを得ないことになった。しかしこのくらいの技術者があたりまえなのだろうか。いぜんH君が転職を希望した会社である。H君は、こんな課題くらい簡単にやっつけてしまうだろう。しかし、彼は英語能力でこのメーカーへの転職検討を半ばで諦めていた。英語能力があるだけで技術能力を見極めずに採用をしているらしいことは見えてきた。まあH君が転職していたとしても彼には不遇な環境であったかもしれない。この北欧のメーカーは端末開発からは撤退することになったようだ。技術者もリストラされるはずだが、さもありなんという気にもなってくる。注意して我々の感性でいう普通の技術力をもった技術者を見つけ出せるよう努力をしていきたい。
一月に入った、T君は大変優秀である。伸び伸びと仕事にまい進している。彼に聞くと水があうようだ。彼が、前の会社で腐っていたことを思い返すと何が違うのだろうかと思う。やっている仕事の方向は殆ど同じであるが唯一違う点は、要素技術開発した結果は複数のメーカーに同時進行で提供していくことだろう。彼は、以前の会社で付き合っていたJavaのメーカーと共同で開発していくことになるようだ。その風景は似ているが、彼の雰囲気はとても明るい点が違う。やっていることを理解する仲間との意識のピンポンが良い結果を生むようだ。