業界独り言 VOL147 携帯開発の先へ

各社の開発が、量産に推移すると我々サポートの手がかからなくなってくる。最終商用製品出荷への駆け込み修正を実施しているお客様やら、次期機種のサンプル納入を進めているお客様など多様ではあるが・・・。一機種の開発費用は、20億円程度かかってしまうというのが、一部のお客様の声である。この費用の大半はソフト開発に費やされていると考えている。ソフト開発というと合致しない部分もあるだろう。なにせ買い入れソフトも多岐に渡り製品としてまとめあげる責任は全てメーカーにあるからだ。

開発費用として計上してきたこうした原資は、ベストセラー機の利益から捻出されたり、将来への投資として払われてきたのだろう。コンシューマーにとってCDMAであることは、音質や回線品質としての差異は、今となっては見えないのだから単に買える電話機か、使える電話機なのかという事になる。こうした視点で見れば、見せてくれる機能やサービスエリアの差異はキーファクタになる。カメラを積み、動画をカバーしてもメールに添付して使える玩具を二万円で配ることでは逆にPDA業界からクレームが来てしまうだろうし、差分としての電話代の高さを示すことにほかならない。

ビジネスモデルが破綻しているという視点に立てないのは、それでも流出していくユーザーに対して明確な差別化フィーチャーが打ち出せないからだろう。チャネルの破綻しているキャリアにとってのWCDMAとフィーチャーリッチに進む上でPDCのコンテンツと戦いを繰り広げているキャリア。欧州展開への前哨戦として位置づけてようやく腰をあげるも、PDCとの共存を迫られて価格とサービスエリアの点から二の足を踏んでいるキャリアなど色々背景が異なっている。破綻したビジネスモデルという点で見れば無意味な開発競争を続けていくことは開発投資という不良債権の増大でしかない。

不良債権という観点からみれば、端末普及に水を差すかもしれないが日本国として携帯電話事業者に端末の価格補填をやめさせるというのが最も効果のある内容となる。インフラ事業としての健全性を高めて競争力をつけさせて、競争力低下の元凶となっている無用な端末開発を抑制する効果がある。製造メーカーと通信キャリアとの間の蜜月で構築されてきた現在の携帯ビジネスモデル自体が携帯不況の根本原因だろう。水道哲学の様に潤沢に開発が繰り返されてきた中で開発者たちの感性や仕組みが麻痺しきっているのだ。

端末メーカーは、機種変更の世代に移ってきた現在の普及度の中で自分の事業運営を支える基盤として不足した国内事業から発展途上の中国などへの視点にうつっているのだ。自身の開発能力の採算性という尺度を正しく持っているメーカーは、それでも慎重に検討をして欧州の事業者からのラブコールを断っていたりする。自己の開発能力を越える開発は自己破綻・自己崩壊を招くからである。こうした判断を積極的でないといって批判するのは的外れである。特定のキャリアに偏重して体調を崩してしまったりする会社よりは、まともである。

ソフト開発会社にしてみれば、各端末メーカー毎に特化したカスタマイズを続けていく事や、開発受託している内容が自社技術としての蓄積が果たせているのかどうかという視点を持っていくことが必要となってきた。いつ、発注元から切られるのか判らないからである。もう安住の大メーカーの傘の下での直結受注が確保されているというような、まるでどこかの外交官やら国会議員による地域誘導型で成立しているような土建屋に未来はない。そんな会社で仕事をしているのであれば、辞めたほうがよい。自身で設計事務所を開くべきである。Web上のコンテンツ開発と同様なことが端末ビジネスで出来るのか・・・

増える開発委託先を抱え込んでいる直轄のソフト会社のみに絞り込むという手法は、既に管理の点からは過去に行われてきた。しかし、実務として開発に手を染めてきた人材を利用していくことが必要ということから単に開発管理が子会社に移っただけでは、管理費が上乗せされただけである。ソフト開発の効率や効果が評価されるという下地を作っていくという事には、なかなか進まないのが実情である。そうした活動を評価する仕組みを最初に決めることが必要なのだが、ソフト会社にしてみれば忙しい中で効率改善という自分たちへの投資という点はなかなか出来ない物らしい。

土建屋から設計事務所への転身ということを実際に業務の中心を担っているソフトウェアハウスでは密かに進めているようだ。実際問題、ディベロッパーと称せられている土建屋にしか大手物件の受注しかこないという事態からの脱皮をしていくためには自立したソフト開発という土壌やプラットホームが必要になる。UIベースの開発をWin32ベースの開発スタイルに適合させた新しいプラットホームの登場は、こうした自力のあるソフトウェアハウスにとっては朗報になるだろう。溢れる機能の一部から、選択されてオプション購入されるソフトというビジネスモデルはPCの夢を端末の上で照らし出す新たな光となるだろう。

今は、まだちいさな光としてしか映らないのがこうした取組みである。現在の携帯開発というビジネス戦場の中にも、まともな感性の人材やメーカーの方達が残っていること、そしてあらたなビジネスモデルの確立に向けた経営トップの判断が出てくるだろう事を期待しつつ日々の開発支援を続けている。必要な道具立てや部品・時期は熟しつつある。新たなビジネス展開は、旧ビジネスの破綻崩壊と共に始まるのだろうか。慌てず騒がず、じっくりと技術醸成をしている戦士たちがいれば、新たな光は日本の携帯業界にも訪れるだろう。開発支援を通じて出会う技術者達に救いはある。彼らと共に魅力的な端末を、この状況の中で、エンドユーザーに出しつづけていくためにも支援の仕事を続けたい。

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