業界独り言 VOL172 不景気で忙しい

自社チップで独立独歩でビジネス無線のプラットホーム開発をしている知人がいる。社長にまで直談判して取り付けた開発テーマであるのだが、昨今の不景気で忙しいという状況のなかで舵取りに腐心しているようすだ。「まだ開発費用が捻出できるのでましなほうです、着実なビジネスとして大きくは無いが市場があり採算が取れる市場と踏んでいます」と焦りは隠せないものの周囲の状況の変化にアンテナを張りつつの開発に没頭しているようである。

メーカーの中には、美味しいところの開発のみを終了させて残りの部分を共同開発という名前の押し付けをして、政治的な戦略でうまく立ち回っているところもあるようだ。市場への責任という使命感の強い会社では、そうした術中に嵌り、押し付けられた苦労を余儀なくされているところもあるようだ。独立採算という制度の範疇で、半年あるいは一年単位という期間で製品を出していく必要があるビジネスモデルでは致し方ないのだろう。

夏休みも佳境のはずだが、実際にこの夏休み期間にメールやネットアクセスが会社からのアドレスで出てくる方が多いように映る。聞けば、工場としては休みということでも実情としては大半の人間が出社しているという忙殺状態らしい。というのに厨房担当の業者などは休むようだし、周辺の食堂も休むので困っているとも聞く。不景気なのに忙しいというのは不思議なことだ。開発工程に大半の問題が集約されてしまう一面があるのかも知れない。

開発費用の原資である資金に問題が出てくる場合には、通信という看板を降ろしてしまった会社まで出てきたりもする。「ここ数年来自社で開発したということはなくて、社外からのチップや技術の導入に奔走していました」と述懐する技術者などが面接に来たりする。無線機器の開発をしてきた会社として自身としても得るものを感じてきたのだが、3Gの破綻に遭遇していまや無線LANのドライバレベルの開発という名の移植作業に傾注しているらしい。

AVも通信も標榜しているメーカーとは裏腹に、電話機開発からは撤退するもののOEM開発などの依頼をして製品としての通信AV機器の開発に成功しているメーカーもある。逆に自社でどちらもやっている会社では製品の舵取りをしている間に時間が経過してしまいものにならないのだろうか。かつてラジカセをラジオとカセットの双方の事業部が製品化していた会社もあったのだが、今は簡単にに繋がらないこともあってか物にならないで話が立ち消えになる時代とも見えていたのだが。

似て非なるものと捉えられているのが、業務用無線システムと携帯電話である。日本ではJSMRやMCAなどと呼ばれ米国ではESMRと呼ばれている。通信プロトコルの差異以外に特徴的な点でいうと、グループ通話といった手法があげられる。昨今のソフトウェア無線機といった特集などが雑誌では挙げられているが実際問題として既にそうした製品がラインアップされているメーカーもあるようだ。異なった通信方式間でのハンドオーバーやデータ通信の切り替えなどアプリケーションからみた継承性などまで視野に置かれた物作りがなされているらしい。

携帯電話機の開発メーカーでは開発効率の向上を目指してプラットホーム作りなどが進められてはいるものの、こうした業務用無線の開発チームなどとの協業にまではスケールメリットの相違などからか相容れないらしい。アプリケーションから見た視点でいえば、どちらのシステムであれメールやチャットが必要だろうし、大量生産でのコストダウンや高機能部品を共有するという意味もあるだろう。プラットホーム作りを業務用無線をターゲットにして行っている友人もいるのだが、ハードや無線性能といった点のクリアまでに割かれるリソースで手一杯であるという話などが聞こえてくる。

通信機器開発という業界において、個別機器の開発に特化したソフトハウスやメーカーの体制で進めてきた歴史が、第三世代という魔物に見入られた結果破綻に瀕していてまずはソフトハウスの脚切りが始まり、続いては方向を変更して大量入社したソフトウェア技術者候補生達の再教育を含めたOJTによるテーマ探しに入ろうとしているようだ。期待の端末を今までからの機能向上による価格上昇という目安で考えてきたPDC延長上の端末機器の苦戦などで自社としての方向性なども見失ってしまったのかも知れない。多大な投資を掛けてきた始末をどのように付けつつ会社としてどう変身していくのが求められているようだ。

同じ会社で原資を共有している仲間達の間の時代変化への対応力という見方をしていると、原資を稼ぎ出してきた仲間達が疲弊しているようだし。メジャーではないものの落ち着いてプラットホームを地道に開発している仲間達が原資の急減に窮しているようにも見える。次の時代に向けて、着実なビジネスを広げていこうという視点の仲間にとっては、社内ベンチャーとして独立して新規事業として過去の負債から切り離した設計を望んでいるようだ。事業の存続という点からみても、新たな火種として起こす事業として旧い事業を巻き込んでいくほうが健全な成長を遂げていくのではないかと応援をしている。

「チップとしてパテントとしてソフトとして検討すべきことを着実にやっておきたい」という知人は、不景気で忙しい会社の中ではきっと、変人扱いされてしまっているドンキホーテ的な位置付けなのではないかとは思うのだが、いっそのこと飛びぬけていったらよいだろうとエールを送りたい次第でもある。彼らが暖めているアイデアをその母体の会社が受け入れないのであれば、支援する技術メーカーが出る可能性もあるだろうし、将来そうした技術までもどこかのチップソフトベンダーで取り込まれてしまった場合には一段と加算されたパテント料を払っても良しとするのが今の彼の会社なのだろうか。

神宮外苑花火大会をオフィスから見ていると丁度新宿の夜景の中に花火があがっていく。綺麗に広がる花火の輪の中に、DoCoMoのタワーも西新宿のMRCのビルも見える。ほんの瞬間だけ明るく照らす、さまざまな形の花火はひと時の夏の夜空を楽しませてくれる。新たなひらめきや予感を感じさせてくれて夢を持つ技術者たちの明日への活力に繋がればよいだろう。不景気で給与も賞与も減らされているのに時間も拘束されて、今いる現実に麻痺してしまっている会社もあるようだ。しかし、学校の後輩たちが望むような業界になるべく日常から変えていきたいものだ。

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