業界独り言 VOL174 スピードと低価格と

先日国営放送で、関西の電機メーカーでの家電立国での難しさについて特集をしていた。そういえば我が家には、このメーカーのDVD録画機が二台現存しているし、DVDプレーヤーも同じメーカーである。VHSビデオデッキ時代の延長上で機種選択をしたというよりも登場するスピードと機能がマッチしていたと感じたからに他ならないのである。まさに番組でのテーマと同じである。番組で取り上げられていた冷蔵庫の話題とビデオの話題とが対極的に興味深かった。枯れた商品と見られる冷蔵庫といった分野では日本メーカーの立ち入る隙が無いという感じなのである。そして、物になる分野といえばタイムリーな商機に一気呵成に投入するというビジネスのデジタルな機器なのである。圧倒的な完成度と機能でシェアトップを奪取するというビジネスモデルである。

低価格を支えるのはシステムLSIということになる。大規模なシステムLSIの完成度を上げるのは容易なことではない。機能仕様自身が正確に網羅できているのかというのが、第一段階ではないかと思う。機能が多すぎて、集約がつかないと感じるありさまなのである。といってホームバスで接続されるさまざまな機器が系統だって設計されて単一コンソールで動作するような気もしないのである。おもちゃのような画面と感じていたDVDレコーダのタイトル入力画面も少しずつ賢くなっていて、最近では漢字入力も可能になっている。こうした機能が流用可能なクラス設計となっていて、このメーカーで共有できるようになっているというのが最近の目指す姿らしい。ひとつの操作性ガイドラインをあらかじめ定義していくという方法は、最近のTRONでの再評価につながろうとしている。

TRONがT-Engineなどとして新たに昔の話を焼きなおしてユビキタス時代にとプロジェクトを宣言した。疲弊した業界ではあるのだが、まだ国内メーカーには余力があるのだろうか。時代経過からLinux文化による組み込み開発も普及の度合いを深めていて、家電メーカーではTRONからLinuxに鞍替えしたところも出ている。T-Engineプロジェクトから締め出されたからという話も聞こえてくるのだが真相はわからない。まさか坂村先生が過去の歴史から恨みを持ち出すということは無いと信じている。宣伝だけで開発費用を捻出しようというマイクロソフトの戦略に組する人は相変わらずいるようだし、混沌として組み込み業界の状況は、次に出てくる良い商品がリードしていくことになるのかも知れない。よいRTOSやブラウザあるいはメーラーのメーカーであったとしても、いまやリストラの嵐で判らないというのが現実である。みな、自立した次の路を模索しているようだ。良い商品を適時に開発完了して提供していくという姿が望ましいのである。国内端末組み込みから中国へと方向転換している。

古い話で恐縮だが大きなアプリケーションである、関西空港というプロジェクトに携わったのは、14年ほども前のことだっただろうか。建設工事で利用するデータ伝送機能付きの無線機を開発提供するのが、私と関西空港の接点である。残念ながら、私にとっては写真のような岸和田沖の海というものが関西空港なのである。正確にいえば工事現場かもしれない。当時のプロジェクトは、既に開発の終わっていたアナログのリピータシステムのMCAシステムをカスタマイズしてこの周辺海域に向けて鉄塔が無線エリアを構築していたのである。私の開発した当時のCコンパイラは、内蔵する16KBのサブプロセッサでプロトコル制御と周辺機器であるパソコンという名前のエプソンのHC40とを接続してデータを送受信することであった。開発期間は、やはり半年程度のスパンではなかったか。

家電メーカの看板を背負ってたちつつ業務用の無線システム開発をしていた当時の私自身の居場所というものがミスマッチしていたかもしれないが、こうしたアプリケーション開発をするためにコンパイラの開発などをする必要があったのである。8ビットマイコンでの性能バランスとコンパイラ生成効率と製品として当時のコストや入手可能な部品とのバランスを見据えつつ答えがあれば、突き進むのである。ニッチな市場とも言える。こうしたシステム系の開発が当時の家電中心のメーカーの中においてはソフト開発というものの取り組みとしては組み込みとしての先鋭部隊といえたのかもしれない。家電品のソフトウェアとは4ビットマイコンの範疇であり一本ソースの制御系という時代だったからだ。iTRONという形でのRTOSの共通化などというものに到達したのは相前後して登場したTRONプロジェクトなどとのマッチングからだった。RTOSも開発していたのは当時の組み込み業界の事情でもあった。

開発スピードを妨げている要因があれば、その改善に取り組んでいくというのも挑戦すべきテーマであるのだが、実際にユーザーが求めているのは完成供給までの期間もコストも合わせて要求しているわけであるから単純な改善で解決がすむという生易しい代物ではない。二三人で開発していた時代から数百人で開発する時代に遷移して、開発方法論も積み上げていくウォーターフォールモデルで開発が終わる時代でもなくなっているのだが、相変わらず自分達の進めている仕事の枠組みからの脱却を進めていく姿が見えないとも伝え聞く。オブジェクト指向でスパイラルモデルで次々と試作を繰り出していくという構成とは程遠い現在のシステム設計を変えるという英断を下すのは開発者自身ではないのだろうか。バカなことといわれてもドンキホーテやピエロのように信じて取り組んでいくというのが技術者というスタイルではないのだろうか。

マイコン以前の時代では、中型マシンやミニコンといったものを利用して組み込み相当のシステム開発や対応をしてきたわけであり、これらのシステム開発のサイクルが必要とする一年余りのサイクルやコストといったものからの脱却を非コンピュータメーカーである家電メーカーが出向や自前のチップ開発などを通じてノウハウを蓄積してきた、この二十年あまりの歴史に新たな一ページを記していくのが望まれているはずだ。巻き込んでいった数々のベンチャー企業などの育成発展を支えてきた旗本である製造メーカーというもの自体の発展こそ期待されるはずなのだが。コンピュータにあこがれてきたメーカーはハードからソフトへの偏向についていけるのかどうかが課題となっている。ハード偏重の失敗はたくさんの事例が残されている。 
 
 仕様を積み上げて、完成させて開発を進めていくという時代ではなくなった。あまりに大規模なアプリケーションを実際にプロトタイピングをして、ユーザーに提示して反応をみてフィードバックを掛けていくというスパイラルな進め方をしていく必要がある。まだ見ぬコンセプトの商品を打ち出していくということで短い開発期間での垂直離陸という離れ業を期待されている。現在からの隔たりはあたかも、ミニコン開発風景をアセンブラベースで進めている左の写真、組み込み端末であるバーコードリーダーにソフトをダウンロードして動作するようにしたものにC言語で開発した所謂カラオケを作りこみデモを見せられている子供達の右の写真。まさか世の中が、こんなに着メロなどという時代になるとは思いもよらなかった。ちょろっとアイデアで一気にコードを書いてデモをしていた。この左右の写真にある組み込み開発の10年余りのギャップにも似ているのかも知れない。 

携帯電話が個別のハードウェアベースで進められてきた歴史に終止符を打ち出しそうなのが、昨今のプラットホーム論議である。第三世代携帯で議論されてきた複雑な重いプロトコルと、高度なアプリケーション世界とを分離するのが目的といえば聞こえはよいが、実際にはチップメーカーで、そこまで介在できないということからブラックボックス化したいという声が大きいからだろう。もはや開発可能なメーカーは北欧一社と米国一社に絞られたという感すらあるのが実情だ。無論国内メーカーも頑張っているのだが恐らく耐え切れないだろう。なぜそこまで介在して自前開発に拘るのかは判らないのである。スパイラルモデルで次々と開発していかなければならない時代に、通信モデム処理に拘りを持つメーカーはいまや前世紀の遺物とすら称せられているかもしれない。アプリケーションとしての端末をユーザーに提供していく上で、ハードウェアから分離されたソフトウェアとしての構造を確立したプラットホーム設計共有をしていく時代に突入しているのではないだろうか。

今までの開発方法や資産に拘るがあまり、結果としての製品まとめに四苦八苦して結果として開発優位性を保てずに良い商品企画でありながら商機を逸したことの反省をしているメーカーもあるようだ。ハードウェアとして同一のチップセットを使うという観点に立つとOEMで調達したセットにソフトのみを一式、新たな構想で仕上て、従来のUIの外部仕様のみを踏襲していくというスタイルが出来れば、携帯開発も組み込みからPCの時代に到達するといえるのだと思う。そんなにBIOSや通信プロトコルの開発がしたいのであれば、開発していけるメーカーに移籍すればよいのである。ある意味において難しくしすぎた3GPPの開発というテーマ自体が自分で崩壊しているともいえるし、もとよりそうしたスペックであると認識して開発してきたメーカーと、こんなはずではなかったと考えるメーカーに分かれているのかもしれない。

いまさらテレビの方式開発をしているがごとき仕事を各社が進めてなんになるのだろうか。アプリケーションは決まっているのに、それを実現するための実装の種類が増えれば増えるだけ組み合わせが増大して相互接続性試験までをクリアできる会社が絞り込まれているのが実情だ。昨今の英国の3G撤退発言や、ドコモのUMTS対応発言などが相俟って混迷の度合いが深まっているのが現状であり、収支を支えきれなくなった欧州メーカーの人員削減の規模は3GPP開発そのもののバランスを崩しかねない状況にある。プラットホームとして選定していたメーカーが撤退したりしてもびくともせずに次のチップセットや他の方式に対応していけるようなソフトウェア開発を支える真の意味の独立したプラットホーム作りに取り組んでいるメーカーが最終コーナーでは勝者になるだろう。

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