業界独り言 VOL188 この続きが読みたいのですが・・

独り言を書きつづけてきたのだが、あるとき「携帯メールの文字数制限にかかるのですが」と言われてはたと気が付いたのであった。それからは、前半の三つの段落のみをメールでお送りして先を見たいと思う人にはWebサイトに制限をかけて参照可能になるようにしてきた。そうしたアーカイブを整理してみると文字数が段々大きくなってきたようだ。インデックスページ自身も40kbを超えてしまったようだしフラットな簡単なページ構成でも重いと言われるかもしれない。データベースも一応導入して掲示板システムを運用したりしているので、こうした形式にすることも可能だろう。携帯画面サイズに合わせることなども作りこむと良いだろう。凝りだせばきりがないのだが・・・。

とはいえ、送っている受取人の方々には前の会社の仲間もいれば、QUAD社で出会った仲間もいて当然機密めいたことは書けるはずも無い。ただ業界を斜にみた観点などから、問題だと個人的に思う点などを書き連ねたくなりつい独白してしまうわけなのだ。共感する仲間をお客様の中からも見つけ出してしまうのは以前からの私のパーソナリティの範疇でもある。辛らつな意見が続いて、同期の方から辞退のメールを頂いたことが一度あったし、同僚だった方からは業務以外のことは受け取りませんといったこともあった。結果として当初始まったメンバーの方々から見れば二倍ほどの規模になっている。無論当初よりフィルター設定でごみ箱行きにしてある方もいるだろうし、ご意見をいただける方もいる。

Quad社にジョイント当初は歪な思い込みで対応しつつも、フラットな会社組織の中で徐々に是正されてきたように感じる。しかし、まだ半ば諦めにも似た砂のような感触を感じることがあっても、組み込み業界にも一縷の希望を見出せるご意見などを頂くと、やはり続けようかというサイクルをまわすことに繋がっている。表題のメールは、ある女性技術者からのものだった、彼女は前の会社でソフトウェア開発の黎明期に入社した世代の方で、家族の事情などから退職するという時代背景などを経験することになっていた。その後ソフトハウスなどでシステム開発などの仕事にもフリーランスとして取り組まれていたようだった。今では、逆に常勤としてより積極的に仕事に取り組まれているようだった。辛口の現場からの意見などを伺いたいと思っている矢先でもあった。

クローズな独り言メーリングリストという構成のアーカイブへのパスワードを一括せずに個々に作成していたのだが、そうした要望を頂けた方にのみ発行するという手順は、敷居が高かったのかもしれない。そうした敷居を越えてやってくる方達からは、頻繁にアクセスやご意見を頂いている。たとえば、双方向な通信手段の提供も必要なことであるというご意見を頂いたH君などとのメールのやり取りは最近では掲示板上の公開やり取りとなっている。掲示板という匿名性を活かしていければよいと思う反面、内容を公開していくことの是非についてはいつか見直すことがあるのかも知れない。書き込み内容の取り下げや訂正といったことも中には起こってくるのかもしれないが、まあ個人ページの範疇の責任でのみ扱える問題としたい。

ソフトウェア技術者最前線で、まだ頑張っているという気持ちで仕事をしているために、感じる開発現場とのギャップなどについて出来る限りの意見や指導をしたいという思いに突き動かされている。いわゆる老人の愚痴ともいえるのかも知れないのだが・・・。そんな意識を共有出来そうな、組み込み開発環境の改善というテーマを追求されている、私が信頼する開発ベンチャーである京都マイコンのお二人がいる。ソフトウェア開発環境という意味で仙人生活をしておられるような印象のお二人でもある。クロスアセンブラでビジネスを創業されて、PC98用拡張高速化ボードで経営基盤を作られて以来、堅実な将来へのテーマを踏まえた独自技術開発を進められてきたわけである。

Quadジョイント以降も、彼らの技術追求の成果との接点を考えてきたように思う。それほど気になるお二人なのである。京都の技術者というキーワードで言えば最近ではオタクな印象のノーベル化学者の田中さんもいるし、Yahoo-BBのCTOになっているペンギンソフト氏もいる。といっても彼はLinux屋ではないのだが・・・。変わっているという範疇でいえば変わっている3σの外側の人たちといえる。京都マイコンのお二人も3σの外側の人だと思うのだが、ペンギンソフト氏とは極性が異なっているグループではないかと私は思っている。まともな技術開発をいつのまにか為しえているという意味においてはお二人も、ペンギンソフト氏ともに素晴らしい成果を残されている。

気が付けばADSLの技術に早期から取り組んできたペンギン氏もそうだし、今、JTAGのデバッグ技術という分野での京都マイコンのお二人の成果の物凄さが、これからの組み込み業界に与える影響も大変なものだと確信している。JTAGが標準搭載される時代でETMが取り込まれようとしている来年に向けた携帯マイコンチップなどのスペックや開発プラットホームの姿からお二人の技術開発成果が広くあまねく利用されるに違いないと思うようになり、メールを差し上げたりしつつも中々お会いすることが出来ずに居たのだが、本日漸く本社にお邪魔してお会いすることが出来たのである。瀟洒なビルに集う「まともな技術者」とは両手で足りるほどの精鋭技術者なのである。

ちなみに、開発環境という意味においては、西海岸のQuad社と比較しても優れた環境が用意されている稀有な状況といえる。経営基盤となったTurbo486などの成果に基づいて、ROM-ICEやらJTAG-ICEあるいはデバッガの基本ソフトともなったPartnerといった技術追求が創業17年の中で大きく花開こうとしている。「まともな技術者」が開発した「ごく当たり前の技術だけど面白い環境」という控えめな説明で始まったデモには見る人のレベルに応じて感じるレベルが異なるのかもしれない。ARMのターゲットボードとJTAGとEthernetで接続された状況で動作する彼らのPartnerデバッガが立ち上げたシステムはARMのLinuxだった。

社長氏がまたたくまに立ち上げた三つのデバッガスクリーンは気がつくとドライバとアプリとカーネルをデバッグするようになっていた。そうだ、このシステムは携帯電話でいえば、ドライバ開発者とプロトコル実装担当とアプリケーション開発担当が一同に会して一台のJTAG環境とターゲットでデバッグしているのである。それぞれの担当者が自由にデバッグ設定をしている環境でのデバッグスタイルには、今の組み込み開発環境との大きなギャップを感じずには居られない。彼らのデバッガはDLLになっていて各種のUIが同時に共有実行できるように設計されているのである。カーネルの状態表示や各種のデバッグ表示の工夫などを実現したい場合にはVBなどでAPIで利用できるのである。

さらに社長氏が茶目っ気たっぷりに見せてくれた技術がとても気になるものだった。EthernetでのターゲットとデバッガPCとの接続を外して、JTAG接続だけにしたのである。しかし、JTAGでのデバッグポートを共有利用する高速通信路I/FというVLINKというフィーチャで先ほどのEthernet環境での環境そのままの使い勝手を実現してくれたのである。JTAGポートをフル活用した成果が見せてくれる華麗な成果は、やはり先をいっている。そしてそれらの技術を下支えしているハードウェア技術は皆が知っている技術なのである。技術の根幹を深く追求してきた京都マイコンの社長氏あるいは取締役氏のような観点からみた「かくあるべき未来のデバッグあるいは開発環境」といった美しい絵画を見たような印象だった。

さらに取締役氏が見せてくれたETMフィーチャーは4bitあるいは8bitでのETM接続で快適なトレース機能などをデモしてくれた。「もう200万円のICEは要らない」とも思うのだが、天才的な社長氏あるいは取締役氏をもってしても取り組んでこなかった携帯組み込みといった世界には、それなりの背景もあったのである。技術的な面でいえば、なんの問題もないのだが、天才的な社長氏や取締役氏が到達している技術レベルでの話であり、開発している会社側の程度あるいはスキルによっては「スグ来いシャザーン」とでもいったような対応を要求する世界には取り組む余地が無かったのである。凄い技術を持ちつつも、陳腐化した組み込み開発現場の実情とのミスマッチが更に溝を作っているようだった。

Quad社の目指す、アプリ開発プラットホームが目指す姿が要求する小さなベンチャーソフトハウスなどの登場を期待するための安価な高精度なデバッグ環境といった目的に照らした場合幾つもの符合が重なった彼らの技術をパッケージしてまとまった開発環境とすると明るい組み込み開発業界といった将来が見えてくる印象もある。今のままで高価なデバッガ利用のために場所や時間に縛り付けられた暗い印象の組み込み開発環境といった姿と、ジーニアスな彼らのゆったりとした開発環境とのギャップが生み出す新たな問題もあるだろうが結果として良好な健全な未来が見えてくるように感じる。彼らの安価な開発ツールを使って実際の携帯電話をベースとしてPCソフトのように開発するという姿は明日の姿となったようだ。

いろいろな話をしつつ、久しぶりに会った時間を使い濃い時間を共有することができた。私よりも若干若かった彼らとの食事などを経た三人の結論は、「ソフトウェア技術者35歳定年説の誤り」といったものであった。そしてまた「まともな技術者の採用の難しさ」あるいは「またもな技術者への育成の難しさ」といった話題に移ってもいった。濃い時間を共有した社長氏、取締役氏ともに実は、まだ独り言の後半を読まれていない方達でもあった。後半を読み解くアカウントの発行を今日の再会を期して行いつつ、あらたな明るい組み込み開発業界に向けて何か取り組みを互いにしていきたいと感じた京都の夕餉となった。

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