忙しさの変容からか、また独り言のペースが高まっている。あるいは、独り言を通じて誰かとメッセージ交換をしていると考えている人もいるかも知れない。確かに、あても無く独り言を書き連ねていくのは寂しいものだが、かつての同僚らと会社を超えて業界同士の範疇で互いに叱咤激励しているという部分もあるだろう。「これからも元気をください」というメールが届いたりするのは、まだ善しとすべきだろう。自分自身の得心を得たいが故に、異論反論をいただきたいという思いも独り言の源泉でもある。複数の通信キャリアとの付き合いやら、異なったOEMとしての視点あるいは競合他社の視点いろいろな問題が、携帯電話という膨れ上がった爆発寸前の業界には山積しているのである。キャリアからキャリアに移る人もいれば、3rdパーティからOEMに移る人もいる。それぞれの部分での課題の壁を打ち破りたいという想いなどがそこにはあるようだ。
携帯業界は、そうした状況を反映してどんどん狭くなってきているように感じている。しかし狭いとはいえ、変わらないのはそれぞれの会社としての歴史や集うリーダー達の意識などによってたつことなのだろうか。最近では八方美人の如くさまざまなキャリアや端末ベンダーに対して、垂直統合戦略に基づいた展開をしているQuad社なのだが、どんな気持ちで付き合っているのかは、みな様々な違いを見せている。太平洋にしずんでゆく夕日を見ながら帰途につく人たちとシャニムニ働いている反対側の人達の意識の差は立場の違いからか肩にちからが。自分たちの文化と異なる人達とのコミュニケーションで障害を起こしているのは、東アジア地区の中でも日本に多いように見えます。最近ではすっかり国際企業として自社ブランドを確立しはじめた隣国の会社などを見ていると何か日本のみが失ってしまった時間があるように思えてなりません。
まあ少しでも未来に期待をつないでいくというのが、仕事の支えになりますので自身のモチベーション改善ということも含めて新技術などの伝道のようなアクティビティを仕事の中でも意識して取り組んでいるところです。ベンチャーの知人も自身のビジネスモデルの刷新の必要性ということを感じ取っての取り組みとして同様なことをなされているようです。広がり行く変容しつつある状況の中で、端末ビジネスも変わっていかざるを得ないのでしょう。単にMNPが始まり、パイの取り合いが始まるというような狭い観点だけでなく携帯電話のインフラを使ってどのようなサービスに利用していくのかということを考えていくことが必要です。無論コスト削減が必要だということも事実でしょうし、海外メーカーなどを使って国内インフラが何処も端末購入をすることになりました。日本人の感性に合うものが作れるのかどうかということもあるでしょうが、少なくともキャリアからの仕様に差異は無いはずです。華美な余計な機能を取り外し、魅力的な端末が構成しうるのかどうかという点も興味深いです。
最近ではリファレンス実装として、3GPPに合致するあるいはGCFに適合するといったことは当たり前のことになりつつあり、さらに踏み込んでキャリア仕様までもパッケージングしようという動きすら見られます。そうなるとメーカーが取り組むことは何があるのでしょうかと悩む人がいるようです。言い換えると今までは、どうもその事を実装できるかどうかということでメーカーの方達が自社の存在理由の一部としているような節がありました。チップセットとソフトウェアをそろえてインテグレーションしていく流れの中でキャリア対応の完成パッケージが存在するようになれば開発コストは一段と下がることでしょう。そのインテグレーションが大変で今までPCの世界ほどにまではプラットホームが完成していなかったと評されているわけでもあります。端末実装の世界で通信プロトコルの世界とアプリケーションUIの世界とを切り分けてきた背景には、それぞれの主体が異なるということもありました。
究極の世界として、最適なOSの上で通信プロトコルもアプリケーションも一体となって自在に実装出来るような環境が出来ればそれに越したことは無いわけですが・・・。製品レベルとしては意外なことですが、組み込みという世界で大規模なシステム構築をしていくために必要な機能分割単位での独立動作が保証されるようなOSの仕組みまでは提供されていなかったようです。モデムとアプリを分けることが前提となったビジネスモデルが、そうした姿を生まなかったともいえます。最高性能を実現しようとするならば、MMUもつかわずに全てモノリシックな状態で実行するというものが、ある意味で究極の組み込みだという意見もあるかも知れません。しかしそうした姿では大規模なシステムを構築していくことが困難になるということも一方ではあり、仮想的な環境としてJavaを動作させるといったこともひとつの解決策だったかも知れません。そんな世界から整理された権限を個別に与えられたOSに移行しようすれば、良いはずなのですが・・・・。
理想的な姿をまず描いて、その実現の機能検証を実装して評価しようというある意味で前向きな研究開発が進められました。昨今の状況でそうした研究を実際に行えるようなメーカーがいないと思われるのですが、垂直統合を標榜する故のことでもありました。理想系として研究開発された結果実現が確認されたのは、現状のスーパーバイザモードで動作する超組み込み状態で開発されてきたシステムとLinuxのシステムをひとつのカーネルの上で独立して動作させることがひとつの成果でした。これによりスーパーバイザモードで開発されてきたコードをUserモードで動作検証することや、そうしたカーネルによるオーバーヘッドの評価などが出来ました。Linuxが動作することにより3rdパーティのOSが動作することを許容する枠組みが確認できたことになりました。理想系として開発したもうひとつの成果はモノリシックな構造を書き換えてモジュラー化された構造の上で全てDLLで動作するような枠組みとしての実験でした。自在に必要なモジュールをローディングして動作させることが確認できました。
ある意味で壮大な研究を実証実験を通じて行った成果、大規模な携帯電話の枠組み(Platform)を刷新していくロードマップが規定提案できるようになりました。大きなメリットとして挙げられるのはカーネルを除く全てのシステムをユーザーモードにおく事でセキュアな環境が構築できることや独立して動作するまったく別のシステムを稼動させうること、あるいはつまらないメモリリークなどに繋がるエラーなどが容易に検知しうることなどが挙げられます、ドライバーにしてもアプリにしても許可されたメモリやIO空間に対してのアクセスしか出来ない状況が作り出されるので安心することが出来ます。またドライバー自身を別のプロセスとして動作させることも可能となり、3rdパーティによるドライバー開発といった仕組みも提供することが出来るようになりそうです。当然いいこと尽くめとはいかずに管理することのオーバーヘッドから性能劣化が数%ついてしまうのはいたし方ないことでもあります。しかし、最近のマイコン性能向上の枠組みを利用すればそうしたことも問題がありません。なにしろソフトウェア開発効率向上のためにチップを分けようという原点を正すことなのですから。
さて、そんなすばらしい環境に飛びこんでいけるのかという新たな障壁が生まれました。やはりユーザーにとっては大規模なシステム開発の根底となる部分の差し替えには賛辞もありますが、不安もありました。前向きな不安という意味で面白いと感じたのは現在使い込んでいる自社あるいは3rdパーティ製ソフトウェアが内包しているだろうバグの問題です。(無いのかも知れませんが・・・)今までは見過ごしてきた問題が、新たなOS環境のもとでは白日の下に晒されてしまいソースを自社部分は直すための工程を組めば済むことですが、3rdパーティとの協業作業については想定外だというのです。多くのメーカーが新機能についての差分開発をする形で蓄積してきた今までの環境を再検証するということが必要になるということなのです。無論新しい枠組みは検証も容易になりますので良いことなのですが工数見積もりも含めて想定外のこととなるのです。この程度のバグは許容してほしいという思いは差分開発をしている現状のユーザーの素直な悲鳴でもありました。
こうしたユーザーの前向きな不安を払拭する意味での対応策は、垂直統合を標榜するソリューション提供者としては新OS環境で検証するリファレンスを提供しつつそして枯らした機能を旧OSの枠組みでもしばらく提供を続けることがマイグレーションの道筋のようです。超組み込みの世界からの脱却という、新世紀突入という章に迎えるにあたっては今後のOEMや通信キャリアが考えるサービスの根幹を替えて加速させる意味を持つものの今まで以上に啓蒙活動をしていくことが重要となっています。しかし、こうした枠組み提案も含めて全方位戦略をとっているQuad社としての取り組みには別の批判もあがっています。全ての通信キャリアに技術提供している立場から言えば、こうした新しい技術を前向きに早くに使いこなしたほうがメリットがあると思いとは裏腹に、先人の苦労は積みたくないというのです。逆にいえば新たな技術提供を別の通信キャリア向けに提供してもよいのかという問いかけには別の答えも返ってきそうです。
インテグレーションされたパッケージに魅力的なサードパーティのコンポーネントが勝手に乗り込みだしていくとすると、通信キャリアが考える端末戦略自体とは別次元で顧客の心をつかみ出してしまうかも知れません。通信キャリアの競争ではなくて、本来の端末メーカー自身の競争になっていく時代なのかも知れません。こうした動きのベースにあった背景自体は、護送船団のように開発費用までも通信キャリアから補填を受けなければ端末開発がままならない状況に危機感を感じたこの業界を支える端末メーカー以外からの動きでした。しかし、そうした展開の行く先に待ち受けているものが、シンプルな通信キャリアとしてのサービス競争であり、端末メーカー毎の魅力という本来の姿に移るのではないかと感じます。通信キャリアがそうした業界自体の有り様に協力こそすれ、反発していくようではまだまだ携帯電話ビジネスの将来については面白い展開が待ち受けているのかも知れません。
新たな端末プラットホームを垂直統合で構築しようという野心的な取り組みがなされているメーカーがあるのは、同様な大規模化したIT化した家電機器のソフトウェア開発もまた大きな課題なのでしょう。機能が膨らみすぎて、その機能をUIとしても表現しきれていないような商品も出始めているようです。もっさりとした使い勝手なども含めて、PC化されていく端末機器に毎日のようにパッチ適用やアップデートを掛けていかなければならないような時代になってしまうのであれば、本来の製品購入をした目的を果たせないで無為な時間を過ごしてしまうパソコンユーザーのような気持ちを全員にしいてしまうのがIT化が描く未来なのでしょうか。セキュアなソフトウェア設計を果たしていくために組み込み端末機器の設計にも、OSからアーキテクチャーに至る変革の時期に直面しているのでしょう。メーカー自身で全てが捌けない事態を理解したうえで、正しくオープン化されてきた流れを受けて自らが手を動かして考えて本来のシステムエンジニアとしての役目を果たす時代になってきているようです。
サンディエゴ湾から、みえる綺麗な夕焼けの向こうに広がるのはアジアの端末機器メーカーの未来なのでしょう。リーダーとなるメーカーがぜひ東方の国から出てきてもらいたいものです。