なかなか、ビジネスが好調すぎる状況が続き、サポートの内情からいえば大変なままである。不幸なことにお客様のプロジェクトが順延したりしたのだが、サポートにとっては幸いだったので、この間に一気呵成に体制強化を果たそうとしているのだが、中々やはり決まらない。こちらから持ちかけるようなスタンスでは、私たちの要望する携帯開発支援というテーマを正しく理解してモチベーション高く嵌る人がいないようなのである。最初に掛け違ったボタンは互いに不幸の始まりとなるし、初恋は悲恋に終わるのも常なるかもしれないので致し方ない。最近のカスタマー増加は、国内ユーザーをほぼカバーするにいたりこれ以上の増加よりも、充実したサポートで応えられるようにするためにも適切な人材登用は最重要な仕事となっている。
人材登用も大会社であれば定期採用といった流れで様々な人材を採用していき、その先輩の目利きの利くうちに後輩や研究室からの推薦を受けた人物をとっていくということになるのだろう。私には分からないのだが、大学卒の方々にはそうした学校風土も含めたDNAがあるらしい。3σの範囲の人材を探していくということであれば、こうした手続きでの確率は高く、それゆえに確立してきたものでもあろう。大学経験のない私にとっては、ある意味で実務と基本しか知らないが好奇心は旺盛で、ともかく仕事を通じて学んで行きたいといった高専のDNAしか持ちえていない。とくにこれが得意といったこともないが、このことには興味が旺盛であるといったことでしかなかった。この技術が出来るとどんな風に世の中が変わっていくのだろうかといった視点は常に意識していたようにも思う。
自身の経験から言えば、景気の悪いオイルショックのどん底に遭遇して、流石の高専でも就職出来ないものかと考えた時期もあった。確かに大手電機メーカーからの求人は悉く、否定的なものばかりとなり自分たちの就職というスタンスから進学というスタンスに切り替えた仲間も多かった。大学で新たに学ぶというものはなく、もう少し追求したいということについての単位しかないのも事実だったのだが時代背景に後押しされてという姿だったと思う。つい最近送られてきた同窓会の報告に掲載されていた進路情報の構成をみて、大学進学率が高いことをまざまざと知り、もしかすると高専の存在意義がなくなってきているのかも知れないと感じた。効率を重んじて適時な教育を目指して実践的な技術者を送り出していくという教育方針と現実の社会風土がミスマッチしているのかもしれない。
ゆとり教育という事で進められてきた、社会主義的な教育の流れと評価をしない事を是としてそれを受け入れた子供たちに対して従来から提供してきた高専という学校システムとのニーズとシーズが乖離してきたのだろう。競争ということではなく資格取得的な位置づけで大学を卒業するためのバイパスルートとして高専を捉えているのだとすれば明らかに間違っていると思うのだが、どんな理由であれ学校を選んでくれる学生は貴重なのだろう。まあどこの学校のどこの学科を出たにしても目覚めて優秀な人もいれば、大器晩成よろしくといった人もいる。自己の人生を貴重なものと考えて前向きに生きている人ならば、自己を犠牲にして家族を養うという大義に照らして生きている人もおり、人生の選択は様々である。探求していくというテーマに照らして新しい技術をスタンダードなどから追いかけていくことに腐心している人もいれば、新技術の実装実現に腐心している人もいる。
Quad社でのサポートという仕事はある意味で後者をお客様の端末として実現するコンサルティングであり、ユーザーにとっては前者として開発してきた米国での成果を提供するソリューションプロバイダでもある。お客様が求める端末開発という具現化に向けてシステムインテグレーションとしてのSE活動といった趣が強いかもしれない。そうした観点に立つと、研究志向の人には向かないのかもしれないのだが、ある程度の仕事を成し遂げてきたエンジニアとして次のトレンドを好奇心でウォッチしながら、お客様を通じて具現化応用事例を同時に多数経験していくという類まれな仕事のリーダーとして活躍できるSEなのである。現在、メーカーの中で製品具現化の下支えとして奔走している方にはうってつけの仕事でもあり、ソリューションプロバイダとして要求されるマルチメディア系あるいは通信プロトコル系の技術を持つ方であればやっていける仕事なのだと私たちは思っているのだが・・・。
無論こうしたSEの位置づけの方がいらっしゃるような会社ならば、製品開発も順調に進むはずなのであるが。なかなか、天は二物を与えないのか優秀なSEの居る会社には、モジュール開発の遅れがあったり、リーダーシップを発揮するSEが不在なために問題集約が図られず問題点が浮き彫りにされない会社などもある。社内コミュニケーションの悪さが見える会社では、優秀なSEがいても製品開発が進まないのである。景気が悪いのだというのだがニーズは溢れるほどあるのに応えられない姿が景気が悪いということと表現しているのはおかしな話である。携帯電話の開発という魔物が大きな楼閣を設えるまでに至り、毎回その楼閣の規模が膨れ上がる中で自らの技術ロードマップを持たずにお客様との対等なスタンスではなくて妾商売だと徹している経営トップも居られるほどだ。どんな無理な難題にも応えていくためにお客様一人に操を立てるという姿には感服もするのだが・・・。
機種開発が頓挫したお客様がいる、そうした中で中核たるべきエンジニアの方が力なく見えるのは何故だろうか。次のチャンスに向けて野心を持たれないのは何故なのだろうか。疑問も募り、一緒に食事をしつつ開発過程で培った彼らの仕事の集約についての相談に乗ったのである。いったん協力会社に依頼していたテーマに切りをつけて、次の開発テーマが決まるまでは社員だけで基礎開発に切り替えるということなのである。私たちからすれば、ゆっくり我々の技術評価をしていただき完成度の高い商品作りに向けて理解度を増していただく良いチャンスだと感じていた。食事をしつつ話をするなかで、彼自身が端末開発についての強い思い入れがないのだとという事も分かり、日ごろの会社への不満を語られただけだった。日頃の不満の多くは福祉としての昼食だったりするのだが、確かに食事環境の充実している会社での端末の出来には相関がありそうである。社員のみが安い食堂となっているのは良い状況とはいえないように映る。
機種開発が爆発しているお客様がいる、一例をあげるとQuad社のソリューションでワンチップで国内キャリア向け端末を仕上げようというのであるから大変である。我々が想定した64MBの最大メモリ容量では入らないのだという。しかし、Quad社が考えるアーキテクチャで作る限りシンプルな中で実装可能とするコンセプトであり64MBのアプリケーションがフル動作している筈がないのである。ましてや二個目のメモリチップを載せるとまで言い出したお客様のソフトウェア部隊の状況を見かねてお客様の技術トップとの夕食の中で進言して機種リーダーとの会議をセットアップしていただき急行した。つい最近多機能ソフト搭載で32MBにメモリ容量を抑えた製品開発を実現したお客様がいるからでもあった。そんなお客様の三倍もの容量が必要になるというのは競争力も含めていかがなものかという事であり、また消費電力の観点からも使わないアプリ領域までも常時リフレッシュするのかという根本的な問いかけでもあった。お客様とのミーティングを通じて性能と反応を犠牲にせずに容量を抑えるためのツボを知らせてお客様自身にご理解を頂いた。
そうした国内の通信キャリアとのサポートを続けている別の通信機メーカーのシステムエンジニアがいる。最新型の端末仕様の開発実現に向けてキャリアと自社開発チームとの間での調整をしているのである。実現への課題について社内の開発チームの状況や問題点についてコミュニケーションを深め、お客様の端末仕様でのポイントについての追求確認をはかり実現に向けた努力をしている。開発母体となる通信機メーカーでは国内の端末開発に注力をしており、国外向け端末には国内での開発経験のノウハウをフルに活用する管理に徹することで開発力を広げようとしている。国内キャリア向けの端末開発の難しさは大変な壁として大きくなっているようだ、戦略に基づいた詳細な端末仕様を提示してくるこうした通信キャリアは、更に開発費用の補助までも申し立てするほどだ。他の通信キャリアでは、共通プラットホームの為のソフトウェアまでも提供したりする例もあるし、さまざまな可能性となるであろう仕様を提示して端末メーカーに取捨選択させようとしている場合もある。
こうした端末ソフトウェアの開発規模の増大は目に見えてサポートでも感じることが出来る。最近のリリースするコードではQuad社で提供するソースコード自体が圧縮しないとCDROMに入りきらないのである。昔デバッグ用にデータ中継に使っていた32MBのスマートメディアなどではELFファイルすら入らないという状況である。開発規模の増大を支えているのはインテルやAMDのマシン高速化だけのようで、そろそろ真剣にタイタニックの映画を支えてきたような分散マルチLinuxマシンによるスパコン構成での高速コンパイルやビルドを考えなければいけない時代なのかも知れない。決して安くはないARMのライセンス料金ではあるものの考えるべき時代に突入したように感じている。もっともコンパイルと共にdependencyを処理するPerlベースのスクリプティングもボトルネックの一つとなっているので、これ辺りからがアプローチするスタート点かもしれない。
システムエンジニアとは柔軟な思考を持ち、さまざまな角度から問題点について対応策や応用着地点を考えつつ提案や仮説検証を立てることが出来る人であるはずなので、沢山のパズルを提供してくれるお客様の支援などWelcomeなはずである。自分の守備範囲を広げて行きたい、もっと専門分野を究めて行きたい、いずれも為しえる仕事である。Quad社というソリューションプロバイダーの一員としてやっていきたいと発露するようなエンジニアが中堅以上の方々に幾らかは居ると信じてはいるのだが、中々お目にかかれないのは現在のバベルの楼閣の建築に疲弊してしまっているからなのだろうか。ようやく見つけた初恋の候補エンジニアとの面接などを通じて、こうした我々の思いに共感して頂き、スキルセットはともかく強い意志を表明していただくに至らなかったのは、悲恋に終わるということとして記録しておくしかないのだろうか。
今、シングルスタックでマルチタスクを実装するというアプリケーション環境をQuad社でサポートするに至ったのだが、以前の会社で開発した究極のRTOSの技術が実は幾つかのQuad社でのカスタマーサポートに有用な答えになりそうだと再認識したのは最近のことでもある。思いついたら関連のエンジニアとアイデアを話し合い議論できるというオープンな環境がQuad社の良い風土であり、これからも自身としても続けて行きたいと感じている。Quad社の中でも、やはりシステムエンジニアとしてアプリケーションからプロトコルまで見渡せる職能は、システムデザイナーとサポートエンジニアだけであり実務として究極まで追及出来るのは後者だけとなるのである。そんな仕事の楽しさや幅広さを話して熱く感じ取ってくれるエンジニアこそ雇っていきたいものである。いつでもWebサイトには求人要項を掲出しているのだが、つまらない仕事をビクビクしながら続けることを望むのか、前向きな好奇心を満たしつつ仕事を切り開いていくのが好きなのか自問自答をしてほしいものである。
私自身が熱海会談と呼んでいる、前の会社での優雅な時代を示す事件がある。時代考証からいうと小道具で思い出す時代としてMacintoshのSIが出るころである。あるエンジニアがふと思いついたビジネスのアイデアのインキュベーションが出来るのかどうか、識者を呼んでいろいろな角度からのブレーンストーミングをしようということになった。当時のその会社では、技術打ち合わせという名目で違った部署の中核のエンジニアが月曜から熱海に宿泊出張で出かけてもそれぞれの部署にしてみれば、「何かの全社的な委員会だったかな?」といった程度であり要素技術を開発提供する部署などはほぼ全員が来たりもしても良いというどこかQuad社的な雰囲気もあったのである。確かに召集をしてくれと頼まれた私が呼びかけた様々な人たちは、「何か楽しいことなのかな」といった面持ちで集まり普段使う会社の保養所とは異なる別環境の温泉付の安い教職員向の保養所を活用して集ったのである。
この事件をきっかけとして彼の思いついたアイデアについて様々な角度からの視点補強などが加わり、ビッグプロジェクトとして大きな船出を遂げるきっかけとなった。私は、こうした技術者同士のコミュニティが生み出す横断的な物の重要さを知るにいたり、もう少し別の方法で同様な効果が得られないものかという自問自答をするきっかけとなり当時のテクニカルミニコミ誌という活動をすることになった。技術コミュニティを有用と考えるようになった二人のエンジニアの一人はビジネス推進の中で米国での標準化委員会に規格提案をして商用化を果たして、行き着くところ会社の枠を飛び出してしまった。私も社内の多くの部署を越えた人のつながりを得て様々な開発を経験して行き着くところとして飛び出してしまった。そんな仲間の温泉保養所でのスナップがある。その中の四名が今、同じ会社に集おうとしているのである、不思議なものである。あの雰囲気を知る人が、少しでもそうした文化を、その会社でも共有化出来ればと思うと残念な気もするのである。そんなDNAを持つような仲間を増やしたいと思うし、お客様の中にも広がってほしいと思っている。