業界独り言 VOL270 昨日の味方は今日の敵?

痛快な開発成果などに遭遇すると膝を叩きたくなるのであるが、そうした成果の一面のみで端末メーカーと通信キャリアの関係が蜜月かといえば、かならずしもそうではないようだ。下克上の時代に突入しかねない時代背景がそこにはある。ナンバーポータビリティの導入によりATTの名前が携帯キャリアから消えようとしているのは米国に限ったことなのだろうか。優れたサービスを提供しつづけて改善していくことの蓄積としてユーザーが満足して通信キャリアとしての繁栄につながって行くのだろう。国内通信キャリアが選択し投資した通信キャリアが他のキャリアに買収されてしまい株価での暴落による損失を出したりもしている。それでも技術導入さえ果たしてくれれば意義があるというのも懐の広い通信キャリアの意見でもある。国内携帯電話市場が戦国時代を迎える中で各端末メーカーの生き様が問われているようだ。

もう国内だけにしか通用しない通信方式の端末を開発製造していても、市場規模の淘汰により残る道は二つしかない。新たなユーザー開拓として、人ではない車だとかベンディングマシンなどに持たせるデータ通信カードのようなものか、国際調達に応えられるような第三世代の規格に則った端末により各国向け展開に対応するものである。国内市場の飽和により国内端末メーカーの生産能力がだぶついていたりするメーカーもあれば、EMS企業として呼応するような路を選択しているところもある。デザインのみを行い、設計を受諾するODMに依頼してEMSメーカーからのOEMを受け付けるといった選択肢もあるのだろう。タイムリーに端末開発を続けていく上で全てを自社で賄おうとしているメーカーは全くなくなってしまった。技術の芽を摘むからといって自社技術開発に拘っている所が、最先端と称する端末作りに奔走している実体もあるのだが果たしてビジネスとして成立しているのかどうかは別問題だ。

そういった大変な端末開発の費用を最近では通信キャリアが補助するのは当たり前になりつつなってきている部分もあるらしい。そうでなければ端末を出してくれないのだというのだろうか。通信キャリアにとって自社の隆盛を示すバロメーターは、端末のバリエーションであり、その端末の個性や使い勝手と通信キャリアが提供するサービスと相俟ってユーザーから評価されるのである。通信キャリアからの開発費用の提供が全ての機種に対してあるわけでもなく、バリエーションを支えるために必要な部分に限られてくるのもいたし方ないことだろう。力のある通信キャリアは、端末メーカーがより効率的な開発を達成できるように自らが踏み込んで仕様作りに留まらず、技術検討評価を行い端末のアプリケーション開発までも行うところが出てきたようである。そして現在の端末メーカーが抱える問題点の本質をようやく理解しはじめてきたところともいえるようだ。過去の歴史に流されること無く新たな戦略の萌芽などが見られるのはまさに戦国時代ならではのことだろう。

蜜月だった通信キャリアとの関係を捨てて、新たな関係を築こうというメーカーなどのトップなどには溌剌としたところがうかがえる。現場のエンジニアとしては不安が隠せない部分もあるようにも見えるのはいたし方ないだろう。自社開発で進めてきたメーカーが、チップベンダーのプラットホームに乗り換えるようになってきたのは最近の目立った動きでもある。そんな中では、よく見知った通信キャリアとの関係からの要望や仕事の進め方といった点において、自分達の進めてきた経験をどこまで反映できるのか、あるいはどこまでチップベンダーのプラットホームが対応出来ているのか確認に追われたりもしているようだ。確認もそこそこにトップダウンで決めてしまったチップベンダーとの契約などで現場が東奔西走しているところもあるようだ。なぜ、トップと現場とのコミュニケーションが乖離しているのかといった話もあるのだが、一度決めてしまった判断を途中で切り替えることなどは出来ないのである。トップに責任が求められるために少なくとも一機種は完成させなければならないのが、国内企業の事情のようだ。

多くのメーカーが、多量の人材を掛けて自分の求める端末開発を進めるようになっているのは、自社開発でもチップベンダーのプラットホームを利用していても共通らしい。一機種の開発には三桁になるエンジニアを自社のみならず協力会社からかき集めて進めているのが一般的な姿である。チップベンダーの技術を使いこなすべく、ソフトウェアの自社の開発成果をリファレンスとしてのみ使い新たにフルスクラッチで書き起こそうという大胆なメーカーが出てきた。このメーカーの取り組みは今まで見てきた形とは大きく異なる。投入する人材も二桁の半ばであり、チップベンダーの推奨する開発スタイルの上に自分達の今までの開発成果のポリシーを重ね合わせた結果、新たなプラットホームに全て構築しなおすことが出来ると判断したようだ。従来のメーカーの方々との付き合い方では、自分達のやりたいことをなぜか隠される形で表層の質問に終始することが多かったようなのだが、このメーカーはどっぷりと深層まで分け入って一体感のある開発を進めようとしている。

Quad社でのプラットホーム開発では、モデム機能をベースとしたチームとUI機能にフォーカスしたチームとの別個の動きが統合されようとしている。前者は、既に端末機メーカーにとっても慣れ親しんだ部分でもあり、後者はJavaなどと対比されるダウンロードあるいはプリセットのアプリケーションの搭載機構として理解されてきたものでもある。ここにきて、UI機能を全て後者で記述するという動きが急展開してきた。今までのJavaと対比されるような位置づけではなく、開発方法論としての切替を推奨しているのである。モデムチームが開発してきたアプリケーション機能がマルチメディアに特化したものにシフトしていくなかで、複雑化してきた画面管理やアプリケーション管理といったものが従来のものでは賄えなくなったからでもある。現在までの開発成果に縛られているお客様にとっては開発方法論切替に当惑しているのも事実である。不安材料としては通信キャリアの複雑な端末仕様を果たしてクリアできるのかどうかといった点に他ならない。

自分達なりに構築してきたQuad社の旧来の機構の上の自社実装により、納入端末の仕様をクリアしてきた自負もありRTOSベースでのアプリケーションが染み付いてもいるし、自分達でベンダーと苦労して実装してきたJavaやブラウザー・メーラーといったそれぞれがプラットホームを主張するようなアプリケーションとの管理統合などの苦労の歴史が懐疑的になっているともいえる。そんなユーザーの気持ちとは相反して、Quad社のUIプラットホーム開発チームは理想を掲げて自社端末での実装開発の歴史から同一コンテキストでの複数アプリケーション動作を追求していた。またAPIを明確にしてロードマップを明らかにしてアプリケーションベンダーとの協業も模索してきた。そうした成果が、チップ性能の進展と共に実を結び機が熟してきたともいえる。アプリケーションの為のOS的な動作を果たしつつルックアンドフィールにこだわるまでになってきた。成果を世に問う時期といえる。

プラットホームを開発している立場から言えば、一体感のある開発を進めてくれるメーカーからの質問や要請は、そのまま開発現場のエンジニアと密着した良いフィードバックループが構成される。良くも悪くも熱海の旅館などと揶揄されてきたメーカーのプラットホームでも実際に内部でのチーフアーキテクトなどと話をさせてもらうと良く出来ている部分もあり、ただし共有化できないためになかなか表立った技術として注目されてこなかったというのが実情なのだろう。そうした経験をつんできたアーキテクトの方達を交えて、真摯な議論をプラットホーム開発の技術者たちとのミーティングを通して互いに求めるものが共通だという認識を持つことが出来たようだ。開発に向かう姿の開発スタイルもこうした実験的な確認を行いつつといったスパイラルなスタイルに切り替えていくことを選択されたのは、当然の帰結でもあろう。この開発チームの事例は、そのメーカー内部でも稀有な事例であり、着実な実績として達成されることにより大きな成果として広がるように思われる。

昔のWorkstationでの開発スタイルにも似たルックアンドフィールやビヘイビアの違いをどのように実装して通信キャリアの仕様の違いとアプリケーションの実装から切り離すのかといった議論が続いた。プラットホーム開発側から繰り出された新たな技術がユーザーとの議論の中でやつぎばやの質問を浴びたのだが、互いの実装に関する理解を共通にすることに腐心した結果、大きく前進出来ることに繫がった。このメーカーが目指す姿は、熱海の旅館と揶揄された構造を整理してプラットホームの上にリファインする形で実装し結果としてOOPな形の設計に向かうことになった。五年目の私の仕事を締めくくるに大きな転換期を示す日本メーカーのソフト開発の雛形として大きな成果を残せるように私自身も協力を惜しまないつもりである。スパイラルでOOPな開発で短期日に効率よく開発が出来るという、昔からの願いでもあった姿が、ようやくユーザーとの間で成就可能な時期に入ったと実感している。

この壁を越えると見えてくる新しい地平線がある。共通プラットホームに立脚した開発ツール群や部品などの登場である。すでに市場に流通している最新端末などに搭載されたプラットホーム機構などは、3rdパーティにとっては格好の道具であるらしく、各自実際に先進的な事例となるアプリケーションやツールの開発を行い実機でデモを見せてお客様にアピールしているのである。次の時代に求められる開発プラットホームには開発された部品をペタペタと貼りながら仕上げていくといったことになるだろう。先進すぎるといわれてきた知己のアプリケーションビルダーが、ようやく携帯端末の上でも利用可能になるだろう。多品種少量生産といった流行り廃りを追いかけていくような時代になるのだとすれば、ウォーターファールモデルでのみ進められていくような仕事の仕方は化石となってしまう。スパイラルでコンビニエンスな時代に向かって、若いエンジニア達の発奮を期待したいものでもある。

問題となるのは、むしろビジネスモデルが変遷していく中で旧態然としている通信キャリアにも課題があるだろう、新たな通信キャリアの動きとしてもアプリケーションを自社開発提供しようという動きなどまでも出てくるだろうし、何よりも私が描いている姿はショップで顧客が自由にアプリケーションを選択できるような流通機構でもある。まずは、開発するメーカーでの効率改善を果たしつつ、通信キャリアの考えるビジネスモデルの脱皮を促せるようにしていきたいと思っている。五年間が1セットと呼ばれる仕事の中で今回のメーカーの仕事を達成することが一つの契機になることに間違いはないだろう。未だに古いよろいをまといつつモデム部分のみを利用しようとしている通信端末メーカーなどを説得して、新たな世界に導いていくことが必要であり敵対視したり批判しているだけでは改善は進まないのである。

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