業界独り言 VOL259 想像力の欠如

想像の範囲外の事象が起こると天災扱いにするというのだろうか、いくつかの保護機構に基づいて動作あるいは機能しているシステムにおいては、基本機能に不備があっても表面化しないという事例もあるようだ。組み込みの話ではなくて、新築によるライフスタイル変更で不慣れなことも手伝いいくつかの事故が勃発したのであるが、いずれも想像力の欠如ということにほかならないようだった。最初の事故は、私の付加した建具への加工工事の問題だった。新しく設えた食器棚にワイングラスなどをひっかけるグラスフックを木工でレールを造り付けていた。細君は建具と共に気に入ってくれていたようだった。

施工に当たってはラワン材をグルーガンで仮止めしてから、電動ドライバーで木ねじで締め上げるというものだったが、使用した木ねじの長さが不十分だったことと下加工のドリル処理が不足していたのでもくねじが十分に建具に食い込んでいないという工事不良だった。予め木ねじを吟味する際に確認すればすむことだったが、そうした手順とともに想像力が不足していたようだった。結局仮止めしていたグルーガンと少しの締め付けでついていた木ねじの食い込みなどがグルーガン接続の糊付けの劣化から、五ヶ月あまりたったある朝突然二列分のフックが外れて掛かっていた該当列のグラスが落ちて粉みじんになった。眼前で起こった事象に私自身何が起こったのかわからなかった。

起き抜けで、まだあまり頭の回っていない状況に、続いて尋常ならぬ事故の音で起こされた細君からの雷が轟いた。この一件の工事不良にともない、我が家での私の施工した工事についての信用はなくなり、以降の作業については必ず細君の確認または、業者による作業という手順をとるように心がけている。今懸案事項で上がっているのは、作りつけテーブルの配線が目に付くということから配線処理用の穴加工が提案されている。また、もう一つはアマチュア無線のアンテナ線の引き込み工事である。磁界ループアンテナと将来のアンテナ追加なども含めて納戸での組立作業や、完成後の室内での利用などを考えた壁内の配線工事を予定している。業者からの見積もりまちとなっている。

そんな日常だったのだが、この新居移転に伴いフランス製のクックトップを購入した話があったのだが、ようやくいろいろと慣れてきて、その特異性というか特徴にもなれてきたところであった。また新居で設えた大きな食器棚の登場で、いままでしまってあった結婚式のときの妹からのもらい物の耐熱ガラスの容器なども日常に使えるようになっていた。これらも最近は電子レンジ料理などには細君もよく使っていたようだった。パイレックスと呼ばれる耐熱ガラス製品には二種類があり、調理用器具というもの耐熱食器という二つの違いがある。ようするに直火がかけられるのかどうかということになるのだが、こうした注意書きなどは恐らく妹から添えられていたのだろうが、しばらく使っていなかったこともあり忘れていたようだった。

週末に出張を予定しつつ自宅に戻った金曜の我が家にはいつになく自信を失った細君が待っていた。どうしたのかと聴くとパイレックスの容器で残っていた小豆を煮ていたところ沸騰しはじめてから少しして「ピシッ」という音を立てて、容器が真っ二つにヒビがはいり一気に煮汁がクックトップに落ちたということで、今は吸い取りまくっているところだということらしかった。どうも細君はパイレックスの耐熱食器と調理用の相違についての認識は曖昧だったようだった。まあ台所は細君の領域でもあり先日のグラスフックの一件もあったので、まずは出来るだけ刺激せずに補助に回ることにした。細君なりに吸水する施策を行い、まずは二口ほどはガスに点火利用することが出来るようだったので一晩乾かして様子をみることにした。

一晩明けて、まずは細君自身が確認するまでは領域侵犯となるので手をつけずにおいた。乾燥して動作するはずなのだが、やはり放電の音はするのだが動作するバーナーは限られたり不安定だったりして何か別の要因が残っているようだ。ガス機器自体の構造はシンプルなものなので機構的な工夫はなにかあるのだろうけれども、まあ簡単に壊れてしまうようなものではないと思うのだが・・・。ともかくクックトップが動作しないことには出張で留守にするまえに解決をしておかないと問題が大きくなってしまうので早速説明書を取り出しサポートセンターを探した。器具の日本代理店指定のサービスセンターは、神奈川には一箇所しかないということで、輸入製品ユーザーが多いとみられる湘南の逗子葉山といった場所のようだった。部品交換といった状況まで考えると少し頭が痛かった。

まずは日常のサポートの範疇でということで納入設置した業者である地元のエネスタに電話をして状況を伝えてまずは、その日のうちに様子を見に来てくれることになった。その電話の中で、最近はサービスで何もなくても訪問するだけで訪問費用がかかるということを予め説明するらしく、最低の費用についての説明の後に、その了承の旨を伝えておいた。この状況でガスが使えるのは限られるのでせいぜいコーヒーのお湯を沸かすことぐらいしか出来なかった。夕刻に近くのエネスタの技術者が訪問してくれて状況再確認の後に分解掃除をしつつの解析作業を進めてもらった。こちらも不安なのでどういった展開になるのかをそばで見守っていた。ある程度目鼻がついた段階で彼から高圧発生回路が絶縁不良となっていると内部を説明してくれた。

発生ユニットの中からは、謎の茶色い液体が大分残っていましたということだった。小豆を煮こぼしたということが元々の要因であり、その理由自体は通常とは異なり使い方を誤ったパイレックス容器を火にかけたので想定外の液体が一気に中に入ってしまったようだった。この結果、大量の小豆の湯でこぼしは、クックトップ内部に入り込み、小さな高圧発生回路のユニットには、そのまま残ってしまったらしかった。問題点の切り分けが出来たので対応策としてユニット内部にシリコンの注入をしたりして絶縁不良を解決してみますという ことだった。内容が理解できたので、この対応で直らない場合には、代理店を通じて部品入手して修理完了までには更に日時が必要ということも想定できた。まずはシリコンシーラントの充填に期待することにした。ほどなくして彼が片付け始めたので問題は修復したようすだった。結果を彼に見せてもらい確かに着火のための放電は配線の先端で行われるようになったらしく大事に至ることはなかった。

クックトップの構造として吹きこぼしなどがあった場合には液体が内部から出て行かない構造となっているのはシステムキッチンなどで、そのユニット以外に対しての故障を広げないための一般的な方策らしかった。設計する立場からいって通常の煮こぼしなどで出る液体の量などには思いがいっても想定外の使い方での障害規模までは対応できないのは仕方のないことだったろう。現象を的確に判断してシリコン注入で絶縁対策などをたくみに行ってくれた技術者の手腕は確かなものだった。細君はといえば、修復した成果に感謝喝采で舞い上がっていたようだ。作業中にお茶も出せない状況についてはなんともしがたいのだが、的確な修理を実施してくれた技術料と出張費用をあわせても5000円足らずで済んだのはなんとも申し訳ない次第である。ガス機器修理の技術者の現場作業はある意味で報われない状況なのかもしれない。

結局エネスタから来た彼は、二時間あまり拙宅で作業をして技術料と出張旅費を合わせてもサービス料の割りは合わない結果だったようだ。保守サービスという形態で契約を結ぶような仕組みが提案されるのは、まあ設置後一年からということもあるのだろう。彼の成果により我が家でのエネスタの株価は高まった。きっと保守契約にも同意することになるだろう。まあ無体な使い方をするユーザーというのは、どこの業界にもいるようなので、マニュアルに書いてあることや教育プログラムで行った内容を更に確認に高い出張旅費を払ってまでも、米国まで再確認に来るというようなケースもままある。評価ボードが到着して動作が不安定だと何も診ずに送り返してくるといったお客様もいる。まあ設計が悪いといえば、それまでだが、出荷の過程で緩んだコネクタの接続状態などの確認やスイッチ設定といった辺りまでは、まずは診てもらいたいものなのであるが、最近のお客様の一部の方はそうした想像力が欠如しているような気がする。

想像力が豊かなエンジニアであれば、次々と思いや懸念が広がっていくものなのだが・・・。実際のソースや状況を見ずに管理だけに終始しているようなお客様もいらっしゃるようで、学習あるいは体験のループが、うまく回らないようだ。最近では国を挙げてそうした事例を打破するような施策も打ち出されるようだが・・・、OJTを無責任な放任として捉えてしまうように映るような仕事の仕方をしている現状が、指標作りやプロセス改善で直せるともいいがたいのだが、組み込みソフト危機の認識は国を挙げているというのは救いであるのかもしれない。仕事の場を求めて、業界の中で転職していくのは最近では当たり前のようになってしまったらしい。無線とオーディオのメーカーからQuad社に移籍してきたN君も、後輩と最近のお客様向けトレーニングプログラムの席上でお客様と支援サイドとして再会したとのことだった。業界は狭いもので、また21世紀に入ってからは人材の流動性は確かに高まっているようだ。

納得できる仕事を求めて会社を移っていくというよりは、会社自身が変身しようとする中で打ち出す早期退職の制度などを利用して動いていくということなのかも知れない。N君が前の会社で進めてきたプロジェクトは、後輩に引きついでは来たものの、続かずに中止になったようで、また会社の中で後輩エンジニア達の再配置は実施されてきているようだ。エンジニアという職種に就いて最初の職場や先輩が大きな影響をもたらすという気がするのは、インプリンティングということなのだろうか。まあ元凶としては組織としてエンジニアとしての育成を考えての仕事のさせ方とマッチするような仕事を次々としていくことが出来ないことにあるのだと思っている。無論、実務の中で育成や成長という期待値とのマッチングをしていくということが昇格人事などの話としてだけ機能しているのだという意見もあるかもしれない、しかし日常活動との連携が乖離していることが一番の問題なのだろう。想像力を働かせれば如何様にでも面白く、実務と教育とを掛け合わせることが出来ると思うのだが、そうした取り組みをしていく上では挑戦していくような気持ちが必要なのだろう。

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