サンディエゴ通信 VOL14 シンプルで危ないエレベータにニヤリ

発行2003/2/13

本社出張時の定宿は、Marriott LaJolla というホテルである。行き先のオフィスに至近なのが一番の理由なのだが、ここに宿泊している限りグループセクレタリのビックママからお小言をもらうことは無いというのも、大きな理由である。以前同系列の Residence inn というコンドミニアムタイプのホテルに泊まった時は、「小汚い」という意味のスラングを連発した上で、”I don’t like there!” とキッパリ言われた。ビッグママは困った時に大変頼りになるので、言うことを聞いておくに限る。

さて、Marriott には、4階建てのパーキングがあり、ロビー階に停められなかった場合には、別の階に停めてパーキングのエレベータでロビー階に向かうことになる。このエレベータの動作アルゴリズムが中々シンプルで良いのだ。2基並んでいるエレベータが全く独立して制御されている。制御アルゴリズムは「客が乗っていない際に、どこかの階でボタンが押されると、その階に向かう」というものである。例えば、三階でボタンを押すと、どこに居ようとも2基とも三階を目指すのだ。先に来た方のエレベータに乗りかかっているところで、「ピンポーン!」といって隣のエレベータが空いた音がする。両方とも三階に居た場合は秀逸である。2基のエレベータが「ピンポーン!」とユニゾンで音を奏で、ドアが同時に開くのである。人気の無いパーキングで思わず「ニヤリ」としてしまう瞬間である。日本のエレベータ会社ならば、さまざまな条件を考慮して、至近のエレベータのみを向かわせるという方式にし、大変なテストを行うところだろう。このような適当なアルゴリズムでも十分用事が足りるものである。

ホテル内には、さらに3基のエレベータがあり、こちらでもシンプル制御アルゴリズムを見て取れる。15階建てのホテルであり、さすがにパーキングのエレベータのような奔放な事は無く、ボタンを押すと一基だけが目的階に向かってくる(一番近いエレベータが向かってくる訳ではない所が謎である)。こちらのシンプルアルゴリズムは「どんな状況でも、ドアが開くときには、その階の案内をアナウンスする」というものである。例えば、既にロビー階で停まっているエレベータ(当然、客は乗っていない)がある状態でボタンを押すと、”Lobby floor. Registration and lounge. Going up.” とアナウンスが流れる。アナウンスの前半は、「これまで乗っていた客に到着した階を告知するものだから」という理由で、客が乗っているか居ないかを判定し、アナウンスするしないを決定するという制御をするのが、日本のメーカだろう。こちらも、細かいところにこだわらなければ、物作りも相当シンプルになるはずだと思わせる。

さて、このホテル内のエレベータには、危険が一箇所仕込まれている。写真を見ていただくと分かるのだが、「開」のボタンを上下からはさむように、呼び出しボタンと警報ボタンが配置されている。以前一度、ドアが閉まりかけてる状態で駆け込んで来た人を乗せてあげようと、「開」ボタンを押したつもりで、警報ボタンを押してしまったことがある。程なく「どうかしましたか?」とインターホンから声がし、動揺した状態で、英語で言い訳をした経験がある。よくよく聞くと、同様の失敗をしたのは、私1人ではない様で、やっぱり設計が悪いようだ。まあ、ここは細かいことに拘らないアメリカである、こちらが注意すれば良いだけのことだ。

Quad 社で仕事をしていると、「細か過ぎる事に拘らない」アメリカ人と、「さまざまな条件に細かく対応させたい」日本のお客様との狭間で、同様な物作りに対する意識の差で悩まされることが多い。お客様の言うことをアメリカ人の同僚に理解いただくというのが、日本オフィスのメンバーである私の役柄なのだが、お客様の言い分にも「それって変だよ」と思う事が無いことも無い。シンプルな設計思想に切り替えてもらえれば、私の仕事もどんなに楽になるのだろう。無頓着な気質になりつつある今の日本でも、シンプル思想で十分通用すると思いませんか?

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