業界独り言 VOL194 3G開発を支えるブロードバンド

3G開発で必要なもの、それは円滑なコミュニケーションに相違ない。Quad社のようにチップビジネスを展開している会社では、世界各地で行われている相互接続性テストの結果などのフィードバックに日夜インターネットを用いて大量なデータが報告され、対応するソフトウェアの修正情報とのピンポンが続いている。幸いにして3GPPにおいては全世界共通のバンドプランであることなどからQuad社自身で保有する評価用端末で実際に日本でもそのまま試験できるというメリットがある。

2.5Gの時代からジョイントしつつサポートという仕事を支えてきたのは、紛れも無いPHSのおかげである。いったい、安い通話料金とはいえ支援の為に幾ら支払ったのだろうか。通信カードの進歩はPCMCIAサイズからCFサイズに変化し、契約形態も宛先固定のものに変わった。通信費用と移動性の双方からみて支援という目的に適っている最良の通信インフラと今はいえる。早晩、インターネットベースのWLANが一般化してくるということも考えられは、するもののお客様のオフィスにお邪魔しての環境などを考えるとPHSのライフタイムは永いだろう。

通信料金がインフラの積み上げであるというビジネスモデルが提示している通信パケット料金というものが、それ自身の開発には料金的にもエリア的にも適合しないというブートストラップ的な問題があり、3GPPではインフラ完成以降も解決しそうも無い。インターネットがダークファイバーの利用などから不良債権ともいえる通信施設の有効稼動に寄与しているという見方もある。余談だが3GPP2の開発支援をしている同僚は、基地局側のデータログを解析に用いるためにモバイルハードディスク(PCMCIA)を購入することに陥ってしまっている。受け取るデータが3Gほど有ったようだ、このHDD自体の容量は5GBなので次世代の4Gまでは対応可能だろう・・・なわけはないか。:-)

冗談はさておき、大量のデータ解析が必要になるなかで、ブロードバンドとしてADSLシフトしている今の世の中の事態はいかなものだろうか。ADSLの線の細さは、実は使い物にならないともいえるのである。無論、ダウンロードではなくてアップロードの速度に論点があることにご注意いただきたいのだが・・・。お客様によっては、いまだに社内専用回線を通じて事業所間を結んでいて、インターネット接続点は本社部門一箇所になっている会社もあるようだ。事業所間の専用回線速度が、そこで展開している事業内容とは矛盾するような128KbpsのISDNベースだったりする事態では円滑なコミュニケーションが構築できない。

では本社部門にいけば解決するのかというと、情報漏洩という観点からFTPやHTTPでのアップロードを禁止している会社も多いようで20MBを越すような日常的なデータ交換に用いれるのは、Emailの分割転送しかなかったりするのだ。昔は日常風景だった分割転送が、インターネット時代になっても再現するのは奇妙な風景ともいえる。いまやニュースでソフトを落とす風景は無くなったもののFTPやHTTPでダウンロードするのは日常的なのに、会社として業務で必要なアップロード手段を作っていないのは片手落ちとも思われる。自社のFTPサイトに制限付きで置かせてもらいネットで相互に落としあうというのがあるべき姿だろう。

韓国のように光ファイバーが当たり前になっている国だからこそビル内配線としてのADSLが流行っている事実があるのだが日本のそれは同様な技術を使っても電柱からの配線でエネルギーをそこいらに撒き散らしているだけのようなものだろう。ADSL契約していた知人が自宅を新築移転して20mほど引っ越したところ、電話線の引き回し距離が2km近く長くなったりするような電話線自体がWeb状態(くもの巣)なのが日本の実情なのではないか。ADSL契約なのに伝送速度が下りでも128kbps程度という話もあるくらいだ。光の国から正義の為に来て欲しいものだが、正義の人はYahooBBと称してADSLを推しているようだ。

出先の環境から大量なログや、お客様の最新ソースなどを米国に送付したりする上ではデータの宅急便サービスが必要になっている気もするのだが国際的なサービスでないと意味はなさそうだ。滞在しているホテル自体はADSLを引き込んで一晩1000円で使い放題というのだが、伝送速度で400kbsが良いところだということとなぜかDNSが曳けなくなる事態に遭遇してVPNもままならなくなったりする。預かった300MBほどのデータをホテルから夜のうちにアップロードしようと考えていたのだが朝起きてみるとネットワークが固まっているのだ。これならPHSで64kbpsでじっくりと一晩かけて送ったほうが堅実だったろう。

緊急を要するデータだったので、翌朝お客様を訪問する前に記憶を頼りにキンコーズによりデータアップロードを試みたのだが、ここもADSLでアップロードは128kbps内外で転送時間の予測は10時間と表示するありさまである。ネット検索で他の代替案を探したところ近くのヨドバシに出来たインターネットカフェが光が引き込まれたアンテナショップらしく乗り込んだところダウンロードしか許可しないとか。日本人にとってインターネットは情報受信のメディアでしかないらしい。光をサービスしている人が余りまくった登り回線の利用を考えていないのだから致し方ない。このショップはケイオプティコムというキャリアとドトール系のエスプレッソカフェの共同事業らしいのだが、せめてWLANサービスでも許可してくれれば有難いのに。

諦めて時間もないのでタクシーでお客様の工場に訪問することにした。大阪の町は不況の嵐が吹き荒れていてタクシーが溢れ返っているのだ。タクシーを利用できる限りは私は利用することにしている。私がタクシーを利用する理由は重要な電話が米国から掛かってくる状況が続いているので地下鉄が使えないからに相違ない。そんな状況なので国際電話で通信しつつの利用なのだ。初老の運転手と若い人たちの就労先が無い話や、誰も彼もがコンビニでバイトしているのはどうしたものかなどと話をしているうちに、お客様のさきに到着した。幸いにタクシーで行くことで大きな視力補正用の液晶ディスプレイの運搬も楽にすんだのだが、大きな葛篭ならぬリュックを背負い液晶ディスプレイを持ち歩く様は異様だっただろう。

借り受けた会議室でモバイルオフィスを展開して16インチのディスプレイにモバイルノートを接続してPHSでメールをしつつエディタでソースを広げつつ携帯電話で国際通話をするのである。お客様との打ち合わせ状態などのときにはさしずめ交換嬢のような状況ともいえる。いずれにしてもコミュニケーションを円滑に回すためには条件が不足しているような不要なデータを送らないこと、適切な指示をお客様に与えつつ最良の効率を達成するような活動をして、インフラの整備不足をカバーしていくことになる。インターネットの普及でデータ量が爆発してしまったような状況なので、誰もPowerPointのファイルサイズに気を配らなくなったりしているのも事実だ。

本来であれば、最後の追い込みだから来て欲しいというお客様の日本的な要請に対してもインターネットとブロードバンドでどこでもサポートが実践できるような国になってほしいし、そうした感性を日本人の技術者も持って欲しいとも思う。問題のデータは、お客様のオフィスで検索した結果梅田のそばにアップロード許可の光ネット接続のネットカフェを見つけてここから夕刻に送信することに成功した。25分ほどで送信が完了した。上りの速度は1.5Mbps程度は出ていたようで、予めメールで交わしたネットカフェのオーナーとの話によれば「そんなに大きなファイルのダウンロードはご遠慮願いたい所だが、アップロードならOK」ということで、先のアンテナショップよりはまともな返事がきていたようだ。

そうやって送り込んだソースファイル一式だったが、一部肝心のファイルが異なっていて禍根を残した。問題はやはりコミュニケーション不足で米国でお客様から借り受けているハードに合うソースにわざわざ変えて送ったお客様の意識と、実際にお客様から送られてくるログを出しているソースを要求している米国の意識差を埋められなかったのは私の落ち度でもある。お客様の理解をもっと確認類推しつつ、時差を利用しなければ限られたリソースで最良効果を目指している仲間に日本人の好きな泥臭い根性といったような意味の無い取り組みを強いてしまうことになる。これが自分自身の意識にもっと気遣いとして達成することが本当の意味のサポートといえるだろう。

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