VOL156 携帯電話はビジネス用電話の夢を見れるか 発行2002/4/15米国にて

チップビジネスからソフトビジネスへQuad社としてのビジネス展開も変わりつつある。ジョイントしてから三年になるが会社としての開発プロセス自身が変容しているのを感じる。チップを動かすためのソフトという感じの会社から、ソフトを動かすためのチップ開発をしていくという感覚に近づいているようだ。無論まだ若きGuru達が積み上げてきた資産の発展的継承は受け入れつつというのがミソかも知れない。とはいえ、10年あまりのチップならびにソフト開発の歴史がソースコード上にシンボルの再定義という形で表れている。

移動電話システムとして、今では台数あるいは契約者数という観点からみれば圧倒的に携帯電話が占めてしまうだろう。あるいは家庭用コードレス電話も含めてという見方をすると、まだPHSシステムもかなりの台数にかるのかも知れない。業務用というジャンルでの通信システムが別途存在している。表題のDMCAと呼ばれるシステムもその一つだ。電話というには抵抗のあるプレストーク通信という所謂「こちらヒューストン・・・どうぞ ピッ」という半二重通信が主体の通信である。

同時に話せないという特質は、ある意味で使いにくいかというと実は、そうではない。会話というものは同時に話をして成立するものではないし、同時に話をしているという状態は喧嘩か過熱した討論のようなものであり相手の事を聞いてはいないという状況なのである。無論、皆が聖徳太子の如き能力を持ち合わせているのであれば別だが・・・。半2重通信として最近の人でも理解しやすいのはチャットであるかもしれない。AOLやMSNなどでサービスしているチャットはインターネットでも人気のサービスと言えるだろう。

こうしたチャットを音声ベースで実現しているのはビジネス用電話といえる国内であればDMCAというシステムなのである。最近では携帯電話と同様にアナログベースのシステムからデジタルのシステムに移行している。レイヤー構造のソフトウェア構成をとり、音声サービスやデータサービスを実現している。目的としているビジネス通信で必要なグループ単位の通信を実現するためにプロトコルレベルでの工夫を重ねたシステムである。ARIBで承認されたDMCAの規格にはアプリケーション性能を念頭に置いた細密な検討成果が反映されている。

業務用通信というカテゴリーは車載無線から携帯無線になり車載特有のアプリケーションも変わってきたようだ。もとより物流業界が主たるお客様でもあり、小規模なお客様にとっては初期コストの高さから携帯電話の導入をはかられた事例もある。残念ながら通信コストという観点に限ってみれば当時は割高だった事もあり固定料金でほぼ賄えるDMCAシステムとの住み分けが出来ていたのだが、PHSなどから始まった固定料金制などの動きから通信料金という括りだけでは優位性が無くなりつつありグループ通信という通信形態自身を見直して携帯電話の利用に本格的に移行していこうという動きもあるようだ。

米国ではある程度の規模で電話システムとの接続も果たしてきたESMRシステムが日本のDMCAに相当するのだが、通信キャリアとして技術革新などの点からも携帯電話技術をベースにしたシステムへの移行を決められたようだ。とはいえ、チャット機能が将来必要でなくなるにしても現行のお客様のニーズをカバーするためにVoIPでのチャット機能という物を開発した通信技術を選択されたようだ。アナログからデジタルに移っても続く回線という考え方ではなくパケットあるいはIPとしてのアプリケーションに移行していくという観点で将来を捉えていった場合には、開発していく技術の方向性も変容してきている。

通信屋という範疇では昔から「俺たちは土管屋ですから」という言い方をしていた。デジタルに移行してからもそうした意識に差は見られないようだった。土管が通ればほぼ仕事は完了である。土管を通した後にアプリケーションを載せて生じた土管としての不具合には「もう直せない」というサイクルに陥りやすい。土管工事の費用は初期にしか掛けられないという事情があるし既に開発配布されている製品群を回収するわけにも行かないので致し方ないだろう。携帯ならば一年も立ち新しいサービスを始めても、必要な人が対応端末を購入するのみだ。新サービスによりバグとなってしまうような事がなければ・・・だが。

携帯電話の高騰したニーズに対応できない現状は、少なくとも周波数問題からは10年かかると言われている。現在の割り付けが短冊上になっていてガードバンドなどの観点から事実上使えない範囲が残されてしまっているからだろう。バンドの淘汰が為されれば、ニーズの少ないサービスの整理なども行われてスッキリとしたバンド構成になると言われている。こうした状況も踏まえてエリアの狭い高い周波数バンドに移行すべきかどうかということを考えているキャリアもあるだろう。既にかつて無線パケット通信を標榜したキャリアのバンドはCDMAに割り振られてしまっている。

人間は過去を振り返るものだが、懐かしんでばかりではいけない。過去から学び、現在の判断に活かし、未来を計画すべきなのだと思う。決めてしまった計画もまた過去の物になることを忘れてはいけない。過去に縛られて立ち行かなくなったことの何と多いことだろうか。誰も決定した人間の責任を追求しようとは思ってはいない。ただ修正したいだけなのだ。WCDMAのシステムも漸く修正のメスが入り始めたようで先陣を闇雲に切っているキャリアに続く、意識あるキャリアの手腕が問われてもいる。自らが規格をリーディングしていない立場のメーカーは開発が難しいのだろうか。リードしている積もりが違ったベクトルに向かい置いてけぼりを食うよりは熟考できるのではないだろうか。

常に未来は変わっている。決まってはいない。業務用携帯無線システムの雄であるESMRのキャリアの選択も今後どうなるのか判らないかも知れない。いずれにしても今のアプリケーションを収容できるソリューションであり今後のアプリケーションに伴い拡張していけることを望まれているのだろう。Voiceサービスという物自体が、FTPやVoIPで表現しうるのかどうかという点などはプロトコルのオーバーヘッドも含めて上位層のアプリケーションの工夫やドライバーの使い方で解決できるのかどうかという発想が必要にもなってきている。実際Quad社の実装にもそうした工夫がされているようだ。

技術とビジネスという観点が技術者にも求められていることを忘れてはならない。技術的に可能だけれども、実際に開発するのに必要な費用とコストはどうなるのか。開発完了するころの時代はどのようになっているのか。いくつもの要因がマネージャー達の脳裏に過る事だろう。ワークシェアという言葉が出てくるほど通信業界は冷えきっているのだが、積極的なワークシェアという捉え方をするまでには至っていないようだ。無線機器自体が、PC応用商品的な素地がないと決めつけているようにも見受けられる。Quad社が提供しているバイナリーアプリケーションのAPIはいくつもの携帯のシステムで動作するようになっている。

この観点で、いえば技術的には開発完了で応用待ちという事になる。自身でビジネスをドライブしていくのか2番手でという判断にもより次の道は分かれていく。Quad社自身にベアボーンキットのような端末部品の提供を求めるという考えもあるだろうし、実際Quad社は何故かW-CDMAの交換機接続用端末を開発して提供したりしているようだ。世の中のW-CDMA基地局での相互接続性試験のレファレンス端末としてUMTS市場に向けて活動している様は国内通信業界の認識とはずれているように思われる。日本のCDMAという市場だけをみるとバンドプランの特異性から端末が特殊になるという事情があり、なかなか国内に向けた端末提供とはならないようだ。

GSMでのGPRS端末でもBinary-APIが利用出来て、UMTSや1xEVDOでも利用が出来るとなればカバー出来ていないのは国内のPDCとPHS位な物である。一つのアプリケーションがワールドワイドに使えるという観点こそが本当に必要なのではないだろうか。残念ながら狭い市場とみられている日本国内へのQuad社の思いにはPDCやPHSは含まれていない。ビジネスをドライブしていきたい国内通信業界からBinary-APIを使わせて欲しいという戦略的なビジネス提案でもあれば面白くなるのだが、何故かそのような判断に思い至る会社もないようだ。ビジネスアプリケーションで冠たる技術やノウハウを保有している会社も、こうした時代の変化には対応していけないようだ。

誰かが環境として提供すべきといわれつつ中々叶わないのが携帯端末のアプリケーション環境である。マイクロソフトも触手を伸ばし、日本ではTRONも手を上げている。当初上がっていたPDAライクなEPOCなどもどこかに頓挫してしまった。メーカー自体で我慢が出来ないという説もある。ビジネスを解決できないものは技術的に優れていても駄目なのである。時期尚早な技術には、適切な時期にパテント取得をしたり応用商品への関連技術の検討などで時期を待つということが必要だ。最近では待たず凍結して解凍も忘れてしまい霜がついて中身が判らないという冷凍庫も、あるようだが・・・。

技術屋としてエンドユーザーを忘れずにビジネスとして技術提供出来るような配慮をしながら開発していくことが必要なのだと感じている。重要なのは、エンドユーザーを履き違えないことではないだろうか。昔からの官僚政治と経済が結託している現在の日本の状況で中間にあるキャリアや管理団体などをお客様として捉えているのであれば、本当の意味のエンドユーザーやビジネスチャンスを失うことになってしまうと思う。自らの技術者としてのリソースを社会の公器として捉えて有効活用していくようにしたいではないか。来年末に予定されている米国のNEXTEL社のシステム移行がどんな形で元の仲間達に影響を与えていけるのか楽しみにしている。私の描いた夢の一つに違いはない。

世の中の表面上の流れに左右されずに信念を持ってビジネスを推進していき、納得のいく大きな成果が得られれば望外の喜びといえる。時代と国からはみ出してしまった者としては、せめてそうした思いの幾つかが叶う事が少しでもあるからこそ生きていけるのである。時差と温度差と文化の差を越えて開発していくことの喜びを最近はネットで分かち合えるような時代になりつつある。自分の生活に根差した中で、ブロードバンドで開発環境やチームを共有して進めていけるeTeamともいえる時代に突入しているように感じている。色々なメーカーから技術者を迎えていくということは、ある意味でその元のメーカーとQuad社との幸福な結婚という状況で考えるべきかもしれない。

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