新たな技術の提示を行う説明会を開催した。当初の予定ではコンテンツプロバイダをも対象にしたもの大々的なものにするはずだった。しかし、実際にはキャリアへの説明が不足していた事から、まだキャリアが採用を決めていない技術について、関連するコンテンツプロバイダを召集するのは時期尚早だった。急遽メーカーのみを対象として技術の説明を行った。
CDMAの端末メーカーに対してデモしたのは、QUAD社から技術パッケージで提供しているソフトウェア拡張による物で、サウンドとテキストと静止画が制御できるフォーマットとそのプレイヤーの技術である。既にカラオケなどで利用されてきたのであるが、今回の版ではアニメーション機能と効果音の機能が追加され簡易な動画仕立ての広告までもがコンパクトなデータ量で実現出来るまでになった。
この技術については、日本のメーカーとQUAD社には確執があった。昨年提供された、初版の技術提供に際して日本のメーカーの実装での性能評価が十分でないという状況があり。各種カスタマイズをしてきた日本のメーカーでの適用との接点ですれ違いが生じていたのである。漢字表示や高機能な各種アプリケーションが当然といった状況の日本とテキストベースで済んでいた米国のそれとではCPU処理の量に差が生じるのは致し方なかった。
最初に、この技術の紹介をキャリアやメーカーに行った際には喝采を浴びたものだったが実際に最初のメーカーが搭載に漕ぎ着けるまでには多難の日々があった。そうしたサポートのギャップを埋めるために日本事務所でも専任の担当が敷かれた程だった。しかし、そうした背景を踏まえた上で新たに性能向上と機能追加を果すのが今回の改版であり、日本のメーカーを納得させるデモが必要だった。
アニメーションのベースとなるPNG形式のファイルのデコード時間の短縮が一つのポイントであり、また実際にレファレンスボードにカラーグラフィックスLCDを搭載してデモしなければ、日本の各メーカーが納得する筈が無かった。フォーマットを考案したベンチャー企業がPC上でデモをして実際のレファレンスボードではテキスト表示だけ・・・というのでは誰も納得しないのが昨年の実績だった。
三週間前にそうしたやり取りが米国本社とのTV会議で確認され、本社サイドでもカラーグラフィックスでのデモを出来る限り行うという宣言が採択された。しかしカラーグラフィックスのドライバーも何もかもそれから手をつけるというのが実情だった。上位系のプロセッサ用に開発してきたカラー液晶ユニットは携帯WINDOWSを動作させる目的などで作成していたのが流用できることになったが残念ながら通常クラスのチップには液晶コントローラが搭載されていないために液晶制御ユニット基板を新たに起こす必要があった。
そんなやり取りが行われていたのを横目で見つつ、上位系プロセッサのカラー液晶を利用しつつ新しいアプリーション用のOSを用いてゲームの移植などをして評価をしてきた流行のインタプリタの移植なども行いつつの支援作業をしてきた。三週が経過して展示会の週となった。キャリアとの間では昨年の前の版での実績などから辛口のコメントをいただきスケジュールの改版を余儀なくされ、メーカーを対象としたものにシュリンクダウンされコンテンツ業者には別途行うことになり社内での会議室を借り切ったこじんまりとしたものになった。
初めて取り組んだというカラー液晶によるアニメーションは幾つかの不備はあったものの、その技術によるインパクトは実際にカラー液晶での表示速度も期待以上の成果を出してくれていた。昨年のものに比べてPNGのデコードと表示速度では、二倍以上の速度となっていた。とはいえ、三週間ででっちあげた液晶表示ユニットとグラフィックスドライバーにはまだまだ課題があった。しかしデモではMI2の映画クリップを巧みに使い動画のような印象と効果音と音楽の合成が可能性という香りを抽出してくれていた。
一日かけて色々なメーカーの方に技術提示を行い、意見交換を交わす中で、米国で開発してきたハードウェアの条件が日本のメーカーのそれよりもかなり性能的には低いことなどが判り、まだまだ日本メーカー自身も改善の余地があることが判明してこの技術による次世代モデルでの魅力が十分に出せそうな印象を醸し出していた。米国メンバーのこの短期間での取組みについては、そのボリュームと成果で驚かされた。
とかく日本のメーカーでは性能を抽出することよりも期間内に完成させて製品出荷を果たしてソフト開発費用を抑えて期間内に安定に送り出すことのみにかけている状況とサンディエゴで行っている姿には対極が感じられた。昔の日本メーカーでの開発の姿がそこにはあるように思うのだが昨今のメーカーも溜池テレグラムかしこもソフトのでっち上げに終始しているように感じられる。
インセンティブがメーカーを甘やかしてこうしたいい加減な製品作りを是としているのがここでもハッキリと浮かび上がってきた。メーカーで出来ないとすれば弊社で基礎技術として提供していくのしかないのだろうが、現在のメーカーの開発モデルでは自分達の個別に作成してきた各分野別モジュールのリンクするのが精一杯で問題点の分析は出来ても性能の抽出までには至らないような気がしてならない。
携帯という消費電力重視の世界においてもマイコンの性能向上でソフト開発モデルを甘やかすマイクロソフトのような世界に成らざるを得ないのだろうか。現在の姿からは、メーカーの今までの作ってきた歴史あるモジュールを捨てることも出来ずツギハギだらけなソフトをリンクするしかないのだろうか。OOPな形のミドルウェアの開発の中で携帯電話のアプリケーションの作り直しをしてインセンティブの無い世界に向けた大きな反証をあげようと画策している。
こんなエキサイティングな仕事が、現在のビジネスモデルではメーカーでは成しえないのは残念だが、致し方ない。今、そうした余裕はメーカーには無いのだ。開発という名前の生産ラインにおいては、チャレンジするというキーワードは失ってしまわれているようだ。ターゲットの納期に間に合わせることが唯一無二で、本来の研究所として取り組むようなこうしたテーマにまでは、依頼する事業部の気持ちも回らないのだろう。
要素技術の開発というキーワードでDOSからMACなアプリケーションとして、携帯電話の機能を捉えてみるというのは、CからC++なのかあるいは、OOPなFORTHなのかはサイズ圧縮などのテーマも含めてやってみる価値があるのだが、もうそうした考えは受け入れられないのだろうか。今、動作しているアプリケーションをフルスクラッチでOOPな考え方で作り直すというのは一つの事件かもしれない。
携帯電話という枠組みで出来る世界がどこまで広がるのかには過大な期待が寄せられているように思う。電話では捌けなくなってしまった事態の収拾にパケット通信によるデータサービスの移行を実験的に始めてきた溜池テレグラムの愛のサービスがこのままECの世界への入り口として進むのであれば、高いクレジットカードに加入したようなものでは無いのかとさえ感じている。
新しい技術で、安価な使いやすい電話機ソフトウェアの開発を達成できれば、インセンティブの無い時代に向けた大きな一歩になるだろう。QUAD社で推進しようとしているプラットホームのピースが揃うことにも繋がる。Javaすらも、プラットホームの上の上位層アプリケーションと同様な扱いで作りうる環境が揃っていくことになりBASICな時代からWINDOWSな時代に代わってきたといえるかも知れない。しかし、携帯にCTRL+ALT+DELはない。