携帯開発業界の様相が混迷している。どこのメーカーも社内人材流通革新を図り始めていたのだ。半年足らずでDOSの無いようなPCにアプリケーションを整える所までに仕上げるという大目標の中で凍てつくようなICEの世界である。慣れぬ手つきでICEの世界で暮らす彼らには、見知らぬ土地に迷い込んでしまったようなものであろう。16MBにも達しようという勢いのソフトウェアを纏め上げていく上では、効率の追求もともかく動作させなければならないという現実が厳然とある。
コミュニケーションする為の端末の開発には、バベルの塔の建設のごとき色々な国々の人たちとの会話なしではなしえないという現実がある。見過ごしてしまいつつも収穫の時期には出荷せざるをえないというのが農耕民族の悲しさであろうか。青いものがまじる麦かも知れないし虫のつくほど美味しいお米かもしれないのだが。農耕作業なので農耕機械の出来不出来は大きく収穫に影響する。かつての農耕現場で活躍していたリアルタイムトレースができて、ストップもステップも思いのままという機能を持ったFullICEは大味な時代までが全盛期だった。
全盛期をしる管理職の人々はかつての自分達の苦々しい経験のなかでFullICE教の伝道者となっている。ソフトウェア開発をスムーズに進めることとは、ハード完成度の向上であるのだが、簡単にハード確認の出来るFullICEはハード屋にとっても福音である。簡単に確認したハードウェアの完成度がどれだけのものかは別にして、同じように簡単に確認して結合してしまったソフトウェアの難しい結合テストやハードな扱いのなかでICEと供に生き延びてほしいボードの面倒を見るのがハード屋の仕事になってしまっていた。FullICEと開発ボードの確保は、プロジェクト生命線でもある。
無線端末の多くは、無線機が要求する周波数との最小公倍数のようなうまい周波数でマイコンを動作させてきた。いくつかの組み合わせが存在する場合には低い周波数を選択して低消費電力を図るメーカーと、高い周波数を選んで処理能力の余裕をみようという二つに分類されるようだ。最近は、アプリケーションが高機能になり無線機で要求する周波数よりもマイコンの周波数を高く動作させるようなPLL内蔵のマイコンも出てきている。マイコンのクロックとロジック設計とは非同期になりつつある。
クロック高速化でボトルネックになるのはICEのバス切り替えロジックなどである。安定動作を求める中でJTAGあるいはさらにETMといった機構の組み込みなども一般化してきている。JTAG+ロジックアナライザという機能構成のものも出始めてきた。こうしたことで携帯のような小型高密度の状態のハードウェアでも安定なデバッグ環境が構築できるようにはなってきた。しかし、ケータイにはまだ問題が山積している。
スリープクリスタルと呼ばれる32kHz程度の低周波数で待ちうけ動作の電力を減らすといった技術も一般化しているのだがJTAGで制御するICEのUIなどが携帯のこういった面を理解していないので、うまく制御できないICEとツボを押さえてあるものとがある。デバッグしている現場を良く知らない管理職の方が政治的にICEの選定などを好意的に手配されたりすると悲劇を生んでしまうかもしれない。上司は、潤沢な環境を与え現場を叱咤するだけなのだが・・・・。
デジタル通信端末の開発をしていく上では規格化されたメッセージなどの内容をICEが的確にUIで表示したりすることも必要な条件である。C言語環境が提供するシンボルをうまく取り扱ったものではenumで定義したメッセージ名を的確に表示してくれる。変換表などは不要である。ソースを開いてブレークポイントは張れるのが当然であるが、データの領域で思考通りに視覚化させることの重要性はあまり認識されていないように見える。
実際の機器組み込み状態でもJTAG機構のみで十分にデバッグできることもあまり認識されていない。またこうした環境ではFLASH書き込みのための機構も必要である。プリンタ接続ケーブルで簡易に接続したJTAGデバッガが、FLASHを高速に書き込める工夫がしてあったり、シンボル処理が優秀なUIを持っていると非常にバランスのよさを感じたりもする。
キャッシュ内蔵の時代にもなりはじめていて、デバッグする測定方法論もより吟味される時代になってきたようだ。ある意味で究極のデバッグ方法ともいえるコードインスツメンテーションと呼ばれる技術などもJTAGあるいは組み込みチップとして考慮すべき段階になってきたようだ。
しかし、ICEの使用台数に正比例してソフトウェアのリリース日程や工数が増えてしまうような現実があるのはいかがなものか。今日も匠の技でシリアルケーブルあるいはLED信号をオシロでみてデバッグしているメーカーは1機種10名たらずのソフトウェア技術者で次々と開発を進めている。何か時代がタイムスリップしているような印象さえある。